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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第15章 帰るために必要なもの

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縁結びモンスターハウス――全員助けようとすると囲まれる

次は縁です。

仲間に似た幻が出ます。

全員助けるボタンは罠です。

 【|縁結びモンスターハウス《えんむすびモンスターハウス》】の扉を開ける前に、ログルは止まった。


「勇者様。扉を開ける前から、部屋の気配が多すぎます」

「多すぎるって、どれくらい?」

「モンスターハウスです」

「名前に入ってるからって本当にするな!」


 扉の向こうから、いくつもの声が聞こえた。ミーナに似た声。カイに似た声。ピヨラの鳴き声。ベルの丁寧な声。ネムの眠そうな声。ゼルドの胃の痛そうな声。どれも知っている。知っているから、足が勝手に動きそうになる。


 コヨリは魔物休憩所で作った【本物確認メモ】を握った。ピヨラの毛布の匂い、ミーナのパンの焦げ具合、カイの木剣の傷、ベルの資料の角度。全部、思い出ログ棚にある。


「開けるよ」

「入口で停止です。部屋中央に行かないでください」

「行かない。たぶん」

「たぶんを消してください」


 扉を開けた。


 部屋は広い。床一面に赤い糸が張り巡らされ、中央には大量のアイテムが落ちている。パン、木剣、毛布、黒い書類、死亡受付札、スープの器。その向こうで、ミーナに似た少女が手を伸ばした。


「コヨリちゃん、こっち」


 カイに似た少年もいる。


「今度は助けて」


 ピヨラに似た小さな魔物が、震えながら鳴いた。


「ピヨ......」


 コヨリの足が一歩出た。


「勇者様」

「分かってる! 分かってるけど、ピヨラが泣いてる!」

「足元確認です」

「ログル、心が石!」


 その瞬間、部屋の中央に大きなボタンがせり上がった。


【全員救出】


「押す!」

「押さないでください」

「名前が押せって言ってる!」

「罠名です」

「罠名をいい名前にするなあああああああ!」


 コヨリは本当に押した。部屋中の赤い糸が鳴り、敵が一斉に湧いた。泣きミーナ、敵兵カイ幻影、小さなピヨラ影、縁切りハサミ、全部助けろゴーレム。逃げ道が、赤い糸でふさがれる。


【死亡】

【死因:全員救出ボタンを押した】

【評価:押したい名前でした】


 入口に戻ったコヨリは、床に正座した。


「押すじゃん」

「押すと思いました」

「止めてよ!」

「止めました」

「もっと強く!」


 二度目。コヨリは全員救出ボタンから目をそらした。部屋中央へ行かず、入口で停止。射線確認、罠感知、人物レイヤー、魔物休憩所の匂い記録。全部を使う。


 偽ログルが出たのは、その時だった。


 見た目はログル。額の宝石も、白い毛並みも、ちょこんとした足も同じ。偽ログルは、優しい声で言った。


「勇者様、こちらが安全です。泣いても大丈夫です」


 コヨリはふらっと動きかけた。


 本物のログルが、肩の上で低く言う。


「勇者様。泣くのは後です。今泣くと死にます」

「本物! 言い方が本物!」


 偽ログルが一瞬だけ顔をゆがめる。優しいことしか言わないログルなんて、たしかに怪しい。


「偽ログル、かわいさまで真似するなああああああああ!」


 しかし叫んだ一手で、赤い糸が足首に絡んだ。縁切りハサミが近づき、糸を切ろうとする。切られた先には、ミーナのパンの札がある。


 コヨリは糸を切らない。ほどく。ターンはかかる。敵も近づく。それでも、切らない。


 間に合わなかった。


【死亡】

【死因:偽ログルを見分けたのに赤い糸で足止めされた】

【評価:本物を選んでも足元は大事です】


 三度目。コヨリは、全員を今ここで助けるのではなく、忘れないことを選んだ。入口から小石を投げ、全員救出ボタンを先に壊す。泣きミーナのパンは受け取らない。敵兵カイ幻影の射線には入らない。ピヨラ影には近づく前に、毛布の匂いを魔物休憩所の記録と照合する。


 中央に、赤い糸の蜘蛛が降りてきた。


【縁結びの蜘蛛アカイト】


「帰るなら、誰を置いていくの」


 糸が揺れる。ミーナ、カイ、ピヨラ、ゼルド、ベル、ネム、リュシア、ログル。全部が、コヨリの足を止める。


 コヨリは唇を噛んだ。


「置いていくって、決めない」


 アカイトの足が止まる。


「今ここで全員助けるって、言えない。言ったら死ぬ。でも、忘れない。棚に残す。拠点に残す。帰っても、なかったことにしない」


 思い出ログ棚の光が、赤い糸に触れた。魔王軍資料室まおうぐんしりょうしつからベルの黒い記録紙が飛び、死因研究室(しいんけんきゅうしつ)の【コヨリの本音】棚が小さく鳴る。


 赤い糸は切れなかった。けれど、絡まる向きが変わった。足を止める糸ではなく、戻ってこられる目印みたいに、細く光った。


帰還因子(きかんいんし):縁】

【強反応】


 コヨリは涙を袖で拭き、偽ログルが消えた場所へ小石を投げた。


「次に偽ログル出すなら、もっと毒舌練習してから来て」

「そこを指導しないでください」


【今回の勇者ステータス】

現在領域:特殊ダンジョン【|縁結びモンスターハウス《えんむすびモンスターハウス》】踏破

累計死亡回数:121回

今回の死亡回数:2回

クラス:【死因学者】/帰還者適性:兆候

現在HP:15/15

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション

獲得済み主要スキル:【死因ログ参照 Lv.2】【死亡ログ改ざん Lv.1】【神様報告遅延 Lv.1】【総合盤面確認 Lv.1】【危険察知 Lv.4】【罠感知 Lv.3】【未識別警戒 Lv.4】【射線確認 Lv.3】【帰還門(きかんもん)感知 Lv.1】【シード差分確認 Lv.2】【一フレームの神様 Lv.1】【仕様書要求 Lv.2】

今回の新規獲得・更新:【縁の見分け Lv.1】【本物のログルを選ぶ Lv.1】【全員助ける前に盤面確認 Lv.1】【帰還因子(きかんいんし):縁】強反応

今回活用した拠点設備:【魔物休憩所】【思い出ログ棚】【人物レイヤー】【死因研究室(しいんけんきゅうしつ)】【魔王軍資料室まおうぐんしりょうしつ】【反省会テーブル】【射線訓練場】

登場人物紹介:コヨリは全員救出ボタンを押してしまった幼女勇者。ログルは本物判定が毒舌で成立する相棒。アカイトは赤い糸で足を止める縁結び蜘蛛です。

※表示は主要スキルのみです。人物判別・魔物判別・救助判断の下位スキルは統合済み・内部保持されています。

コヨリの縁まで罠にされる攻略を見守っていただける方は、ブックマーク登録・評価・コメント・レビューで応援いただけると励みになります!

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