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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第15章 帰るために必要なもの

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忘却の子供部屋――プリンは帰還因子ではない、たぶん

次は記憶です。

子供部屋に似た場所へ入ります。

宿題とプリンが襲ってきます。

 【忘却の子供部屋ぼうきゃくのこどもべや】は、入った瞬間だけ、優しかった。


 窓の横に机がある。棚にはゲーム機らしきものが置かれ、床にはランドセルが転がっている。壁紙の色は、たぶん覚えている色に近い。部屋の外から、誰かが「こより」と呼ぶ声がした。


 コヨリの足が止まる。


「ログル」

「はい」

「ここ、わたしの部屋っぽい」

「完全一致ではありません。思い出ログ棚の情報と照合中です」

「完全一致じゃないの、やだな」

「はい」


 いつもの毒舌が少し薄い。ログルも分かっているのだ。ここは、コヨリが笑って踏み荒らせるだけの場所ではない。


 だからこそ、罠は性格が悪かった。


 ランドセルが、ずるりと動いた。肩ひもが蛇みたいに伸び、床を這う。表面には【未提出】の札が貼ってある。


「宿題いいいいいい! 異世界まで追ってくるなあああああ!」


【偽ランドセル】

【能力:未提出硬直】


 コヨリは逃げようとしたが、床に【宿題床】が光る。踏んだ瞬間、頭の中に「提出しなさい」という声が響き、体が固まった。


 その一ターンで、思い出食いクラゲがふわりと近づく。透明な触手が、コヨリの胸に触れた。


 母の声が、「誰かの声」になる。


【死亡】

【死因:未提出の宿題で一ターン硬直した】

【評価:宿題は時を止めます】


 入口に戻ったコヨリは、床をばしばし叩いた。


「宿題で死ぬの、現実感ありすぎてやだ!」

「現実感があるほど、記憶因子への干渉が強いようです」

「もっと楽しい記憶にして!」


 二度目。コヨリは思い出ログ棚から持ってきた【記憶メモ】を開く。そこには、自分で書いた言葉が並んでいる。


 天野こより(あまのこより)。わたしの部屋。机は窓の横。ゲーム機は棚の下。冷蔵庫のプリンは、たぶんわたしの。


「プリン、まだ入ってる」

「勇者様が強く主張したため、仮登録されています」

「えらい!」

「プリンがではなく、記録がです」


 奥の小さな冷蔵庫が、ことりと鳴った。白くて丸い。扉には小さなメモが貼ってある。【おやつ】。その字を見た瞬間、コヨリの目が吸い寄せられた。


「プリン」

「待ってください」

「見るだけ!」

「見るだけで一手使う場合があります」

「プリンを見るのにターン消費する世界、悪い!」


 冷蔵庫の前の床に、薄い罠がある。分かっている。分かっているのに、冷蔵庫から甘い匂いがする。コヨリは足元確認をして、一歩横から回ろうとした。


 冷蔵庫の扉が自分から開いた。


 中にはプリンがある。透明なカップ。黄色い表面。小さなスプーン。見覚えがある気がして、胸がきゅっとなる。


 次の瞬間、冷蔵庫に歯が生えた。


「冷蔵庫までミミックううううううう!」


 噛まれた。


【死亡】

【死因:冷蔵庫のプリンに釣られて忘却床を踏んだ】

【評価:プリンは強い】


 三度目は、コヨリもさすがに慎重だった。鑑定机で確認した【食べ物の思い出を疑う】メモを左手に持ち、右手に小石。宿題床は小石で起動させ、偽ランドセルは棚の下へ誘導する。冷蔵庫は開けない。開けないが、プリンの位置だけは記録する。


「プリン、見ないのですか」

「見ると死ぬ。でも、忘れない」


 コヨリは部屋の中央で、声に出した。


天野こより(あまのこより)。机は窓の横。ゲーム機は棚の下。ランドセルは床に置きっぱなし。宿題はたぶん、やってない。冷蔵庫のプリンは、たぶんわたしの」

「最後が怪しいです」

「大事!」


 奥から、母の声に似たものが聞こえた。


「こより、おかえり」


 優しい。けれど、少しだけ綺麗すぎる。リュシアのスープの湯気、ミーナのパンの匂い、カイの木剣、ピヨラの毛布。思い出ログ棚の本物たちは、もっと雑で、もっと温度があった。


「本物は、たぶん、もうちょっと怒る」


 コヨリは声のする扉を開けなかった。代わりに、机の引き出しの横、少し傷のある壁紙へ手を触れる。そこだけ、罠の匂いがしない。


 壁紙の傷が光った。


帰還因子(きかんいんし):記憶】

【微反応】


 部屋の景色が薄くなる。冷蔵庫ミミックは不満そうに歯を鳴らした。


「プリン、正式な因子になった?」

「微妙です」

「微妙って言うな!」


【今回の勇者ステータス】

現在領域:特殊ダンジョン【忘却の子供部屋ぼうきゃくのこどもべや】踏破

累計死亡回数:119回

今回の死亡回数:2回

クラス:【死因学者】/帰還者適性:兆候

現在HP:15/15

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション

獲得済み主要スキル:【死因ログ参照 Lv.2】【死亡ログ改ざん Lv.1】【神様報告遅延 Lv.1】【総合盤面確認 Lv.1】【危険察知 Lv.4】【罠感知 Lv.3】【未識別警戒 Lv.4】【射線確認 Lv.3】【帰還門(きかんもん)感知 Lv.1】【シード差分確認 Lv.2】【一フレームの神様 Lv.1】【仕様書要求 Lv.2】

今回の新規獲得・更新:【記憶を書き留める Lv.1】【おかえり識別 Lv.1】【宿題警戒 Lv.1】【食べ物の思い出を疑う Lv.1】【帰還因子(きかんいんし):記憶】微反応

今回活用した拠点設備:【思い出ログ棚】【拠点厨房】【鑑定机】【死因研究室(しいんけんきゅうしつ)】【成功ログ棚】【魔王軍資料室まおうぐんしりょうしつ

登場人物紹介:コヨリは宿題とプリンに殺されかけた幼女勇者。ログルはプリンを帰還因子(きかんいんし)扱いするか悩む解析神獣。冷蔵庫ミミックは生活感の顔をした歯です。

※表示は主要スキルのみです。記憶系の細かな確認行動は【帰還記憶保持】候補として内部保持されています。

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