一マス違いの地図室――住所がズレると魔王城
次は座標です。
一マス違えば、そこは家ではありません。
なぜか魔王城が近いです。
【一マス違いの地図室】は、床そのものが地図だった。
青い線が川になり、茶色の線が道になり、白い四角が建物になる。コヨリの足元には【現在地】の札が浮かんでいる。遠くには、薄い光で【家】と書かれた小さな印があった。
「見えた! 家!」
「走らないでください」
「走らない! 走らないけど足が前に!」
「勇者様、足も本人です」
コヨリは足を両手で押さえた。名前の次は座標。どこへ帰るのかを決める因子だ。魔王軍資料室からは、ベルが黒い紙の地図を送ってくれている。王都基準、魔王城基準、初期村基準、神様管理基準。並べるだけで、頭が痛くなる。
ゼルドの声も小窓から届いた。
「勇者よ。余の城を帰還先に使うな」
「使わないよ! ちょっと安定してそうだなって思っただけ!」
「余の玉座は安定したラスボス席であって、玄関ではない」
コヨリが一歩進むと、床の地図がくるりと回った。北の札が右へ行き、東の札が下へずれる。コヨリの目も一緒に回る。
「北って上じゃないの!?」
「地図上では上ですが、地図が回転しています」
「地図を回すな!」
方角まぜカラスが天井から降り、北と南の札をくちばしで入れ替えた。その横で、一マスずらし小鬼が【家】の印をそっと横へ押す。
「こら! 人の家を一マス動かすな!」
コヨリは小鬼へ走りかけた。だが足元の【現在地】が薄くなる。現在地喰いが、ぬめっと地図の下から出てきて、札の端を食べていた。
「現在地が食べられてる!」
「現在地を失うと、座標照合ができません」
「そんな大事なものを床に置くなあああああああ!」
慌てて地図を手で回そうとした瞬間、床が光った。
【地図回転床】
景色が九十度傾く。コヨリの体もころんと転がり、【家】の印だと思って踏んだ場所が【魔王城】に変わった。
【死亡】
【死因:地図を回して現在地を失った】
【評価:地図は回さず、自分が回りましょう】
「幼女を回すなあああああああああ!」
入口に戻ったコヨリは、しばらく床をにらんだ。二度目は、シード地図室のメモを開く。思い出ログ棚から伸びる【元の世界:家】の薄い線、魔王軍資料室の外部記録、死因研究室の拠点保存用ログ。それらを反省会テーブルで束ねた【基準点メモ】がある。
「基準点は、拠点の壁に書いた【帰る】です」
「わたしが書いたやつ?」
「はい。神様側ではなく、拠点保存用の基準です」
「じゃあ信じる」
コヨリは小石を一つ、床の中央に置いた。
「ここをゼロ」
床が少しだけ安定する。方角まぜカラスが近づく前に、コヨリは小石をもう一つ投げて北を固定した。一マスずらし小鬼が家を押す。そこへ、ベルから送られた黒い紙の定規を置く。魔王軍資料室経由の紙は、神様の白い地図にじわりと染み込み、ズレを止めた。
奥から、巨大な定規とコンパスを持ったゴーレムが現れた。
【座標ずらしの測量士グリッド】
「誤差です」
「誤差で家を動かすな!」
グリッドが定規を振るたび、床のマス目が半マスずれる。半マス。ローグライクのくせに半マス。コヨリは怒りで震えた。
「マス目世界で半マスを使うなああああああああ!」
怒鳴った一手で、斜め移動禁止番犬が近づく。コヨリは歯を食いしばり、叫びを飲み込んだ。叫ぶのも行動になる場所は本当に腹が立つ。
グリッドの足元を見る。定規を振る前、コンパスの針が必ず【帰る】の基準点を指す。その一瞬だけ、ズレる前の正しい線が見えた。
「ログル、あそこ!」
「はい。今です」
コヨリは小石ではなく、死因図鑑室から持ってきた古い札を投げた。札はコンパスの針に絡み、グリッドの測定が止まる。床の【家】印が一瞬だけ、魔王城でも王都でもない、知らない白い光へつながった。
【帰還因子:座標】
【欠片反応】
完全ではない。家そのものはまだ黒塗りだ。それでも、どこでもない場所ではなくなった。
コヨリは膝に手をついた。
「一マス違いで魔王城、怖すぎる」
「魔王様から、追加で苦情が届いています」
「いまは読まないで!」
【今回の勇者ステータス】
現在領域:特殊ダンジョン【一マス違いの地図室】踏破
累計死亡回数:115回
今回の死亡回数:2回
クラス:【死因学者】/帰還者適性:兆候
現在HP:15/15
基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動】
獲得済み主要スキル:【死因ログ参照 Lv.2】【死亡ログ改ざん Lv.1】【神様報告遅延 Lv.1】【総合盤面確認 Lv.1】【危険察知 Lv.4】【罠感知 Lv.3】【未識別警戒 Lv.4】【射線確認 Lv.3】【帰還門感知 Lv.1】【シード差分確認 Lv.2】【一フレームの神様 Lv.1】【仕様書要求 Lv.2】
今回の新規獲得・更新:【座標仮押さえ Lv.1】【地図を回すな Lv.1】【基準点固定 Lv.1】【帰還因子:座標】欠片反応
今回活用した拠点設備:【シード地図室】【人物レイヤー】【思い出ログ棚】【魔王軍資料室】【反省会テーブル】【死因研究室】【仕様書保管棚】
登場人物紹介:コヨリは地図を回して自分も回った幼女勇者。ログルは正しい基準点を示した解析神獣。ゼルドは魔王城を家扱いされかけた苦労人魔王。グリッドは半マスずらしというマス目世界への冒涜を行う測量士です。
※表示は主要スキルのみです。地図・店対応・罠・射線などの下位スキルは統合済み・内部保持されています。
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