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■第25章:三輪山

 電車を降りたとき。


 少しだけ、風が違うと思った。


「……」


 理由はわからない。


 ただ。


 空気が、重い。


「……」


 駅前。


 人はいる。


 観光客。


 地元の人。


 普通の風景。


「……」


 それでも。


 どこか、音が遠い。


 膜が一枚、挟まっているみたいに。


「……」


 歩く。


 目的地は、決まっている。


 迷うことはない。


「……」


 見えてくる。


 山。


 大きくはない。


 高くもない。


 それなのに。


「……」


 圧がある。


 ただそこにあるだけで。


 空間を支配している。


「……三輪山」


 小さく呟く。


 その瞬間。


 ——ずれる。


「……」


 視界が、ほんのわずかに歪む。


 風景が、重なる。


 今の景色。


 それと——


 違う時間の、同じ場所。


「……?」


 足が止まる。


 頭の奥。


 じん、と痛む。


「……」


 見える。


 参道。


 今より少し人が多い。


 季節も、違う。


 光の色が違う。


「……」


 そして。


 そこに——


 澪がいる。


「……は」


 息が、漏れる。


 距離はある。


 だが、間違いない。


「……なんで」


 声が出る。


 答えはない。


 だが、わかる。


「……来てたんか」


 ここに。


 ひとりで。


「……」


 澪は、立っている。


 同じ場所。


 同じ境界の前。


 縄。


 柵。


 立入禁止の札。


「……」


 今と同じ。


 何も変わらない。


 それなのに。


「……」


 澪の表情だけが、違う。


 真剣。


 いつもの軽さがない。


「……」


 ゆっくりと。


 澪が、縄に手を伸ばす。


「……やめろ」


 思わず、声が出る。


 届かない。


 わかっているのに。


「……」


「……ここで止めようとしてる」


 指が、触れる。


 その瞬間。


 ——ノイズ。


「……っ」


 大輔の頭に、痛みが走る。


 今のものじゃない。


 過去のもの。


 澪が感じたはずの。


「……」


 澪が、わずかに顔を歪める。


 同じだ。


 自分と。


「……」


 そして。


 ゆっくりと、顔を上げる。


 山の奥。


 見えないはずの場所を、見ている。


「……」


 口が、動く。


 小さく。


「……」


 音は聞こえない。


 だが——


 読める。


「……もういいって」


「……」


 時間が、止まる。


「……」


 その言葉。


 知っている。


 何度も見た。


 あの映像で。


 事故の直前。


「……」


 ここで。


 言っていた。


「……」


 誰に向けて?


「……」


 視線の先。


 山の奥。


 何かがいる。


 見えない。


 だが。


 確実に。


「……」


 澪が、一歩下がる。


 縄から手を離す。


 それ以上、踏み込まない。


「……」


 引いている。


 自分と違う。


「……」


 理解している。


 ここが何か。


「……」


 景色が、ぶれる。


 現在に戻る。


「……っは」


 息を吐く。


 荒い。


「……」


「……これ、あとから来てる映像や」


 目の前。


 同じ場所。


 同じ縄。


 同じ山。


「……」


 違うのは。


 自分だけ。


「……」


 澪は、引いた。


 自分は——


「……」


 手を伸ばす。


 同じように。


 縄へ。


「……」


 止まらない。


 止める理由がない。


「……」


 そのとき。


 背後から、声。


「そこから先は、入れない」


「……」


 振り返る。


 男。


 組織の人間。


「……」


「ここは中心点だ」


「……」


 もう、聞いていない。


「……」


 視線は、山へ。


「……」


 澪が見ていた場所。


 その奥。


「……」


 手が、縄に触れる。


 今度は。


 自分の番。


「……」


 視界の端。


 赤い点。


 ——REC。


 それが。


 暴れるように明滅する。


 まるで——


 “続き”を再生しろと、命じるみたいに。

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