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■第24章:選択の兆し

 ノックの音で。


 現実に、引き戻された。


「……」


 暗い部屋。


 変わらない。


 時間も、わからないまま。


「……誰や」


 声が、かすれる。


 自分の声じゃないみたいに。


「入るぞ」


 返事も待たずに、ドアが開く。


「……」


 男。


 あの組織の。


 無表情。


 変わらない。


「……なんや」


 視線を逸らしたまま言う。


 興味がないわけじゃない。


 ただ——


 優先順位が、変わっている。


「……」


 男は、少しだけ部屋を見渡す。


 床。


 机。


 ペットボトル。


 封筒。


「……ひどいな」


 小さく言う。


「……」


 否定しない。


 する意味もない。


「……」


 数秒、沈黙。


 そのあと。


「見ているな」


「……」


 短く言われる。


「……見てるで」


 素直に答える。


 隠す気はない。


 もう。


「……」


 男は、一歩だけ近づく。


「止めろ」


「……」


 即答しない。


 代わりに。


 視界の端。


 赤い点。


 ——REC。


 それを見る。


「……無理や」


 小さく言う。


「……」


 男は、少しだけ目を細める。


「まだ間に合う」


「……」


 笑いそうになる。


「……何がや」


「……」


「戻れる」


「……今の線から外れるだけだ」


 はっきりと。


 言う。


「……」


 その言葉が。


 少しだけ、引っかかる。


「……戻ってどうすんねん」


 ゆっくりと、顔を上げる。


「……」


「金もない」


「……」


「仕事もない」


「……」


「全部、消えたやろ」


「……」


 淡々と並べる。


「……それでもや」


 男が言う。


「……」


「それでも、人間でいられる」


「……」


 一瞬。


 言葉が、止まる。


「……」


 胸の奥。


 わずかに。


 何かが動く。


「……」


 だが。


 すぐに消える。


「……それで、ええんか」


 低く言う。


「……」


「知らんまま」


「……」


「終わって」


「……」


「何もわからんまま」


「……」


 男は、答えない。


「……」


 沈黙。


 長い。


「……」


 先に口を開いたのは、男だった。


「……全員が知る必要はない」


「……」


「知らない方がいいこともある」


「……」


 聞いたことのある言葉。


 理解している理屈。


「……」


 それでも。


 納得はしない。


「……あいつも、そう言われたんか」


「……」


 澪。


「……」


 男の視線が、わずかに動く。


「……」


 答えない。


 だが、それで十分だった。


「……」


 拳を握る。


 力が入らない。


 弱くなっている。


 自分でもわかる。


「……」


 男が、少しだけ息を吐く。


 ほんのわずかに。


 人間らしい仕草。


「……」


「お前だけだ」


「……?」


「ここまで戻ってこれる可能性があるのは」


「……」


 意味が、すぐにはわからない。


「……どういうことや」


「……」


「まだ、境界が残っている」


「……」


 その言葉で。


 理解する。


「……」


 完全には壊れていない。


 まだ。


「……」


 だから。


 今なら。


「……」


「……戻ったら」


 男が続ける。


「……」


「すべて忘れる」


「認識を切れば、進まなくなる」


「……」


 その言葉が。


 重く落ちる。


「……は?」


「……」


「記録に関する認識を、処理する」


「……」


 頭が、静かになる。


「……」


 それは。


「……」


 澪のことも。


「……」


「忘れるんか」


「……」


 沈黙。


 それが、答え。


「……」


 笑う。


 小さく。


「……無理やな」


「……」


 即答だった。


「……」


「それは、選択じゃない」


 低く言う。


「……」


「ただの消去や」


「……」


 男は、何も言わない。


「……」


 視界の端。


 赤い点。


 ——REC。


「……」


 それを見る。


 自然に。


「……」


 男が、一歩下がる。


「……」


「これが最後だ」


「……」


「次はない」


「……」


 警告。


 静かな。


「……」


 ドアへ向かう。


 止まらない。


「……」


 開く。


 そのまま出ていく。


 振り返らない。


「……」


 ドアが閉まる。


 音が、響く。


 小さく。


「……」


 静寂。


 また。


 同じ部屋。


「……」


 違うのは。


 ひとつだけ。


「……」


 選択肢。


「……」


 残された。


 今。


 ここに。


「……」


 目を閉じる。


 一瞬だけ。


「……」


 浮かぶ。


 澪の顔。


 笑っている。


 あのときと同じ。


「……」


 目を開ける。


「……」


 視界の端。


 赤い点。


 ——REC。


 それが。


 静かに、点いている。


 まるで——


 答えを待っているみたいに。

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