■第22章:制裁
戻された。
何事もなかったみたいに。
「……」
いつもの部屋。
いつもの机。
いつもの椅子。
「……」
違うのは。
中身だけ。
「……」
スマホが、机の上に置かれている。
電源は入っている。
画面も、そのまま。
「……」
逃げ場はない。
そういう配置。
「……」
ゆっくりと、手を伸ばす。
画面を見る。
「……」
通知。
大量。
見たことがない数。
「……なんやこれ」
指で開く。
YouTube。
「……」
一瞬、止まる。
読み込み。
ぐるぐると回る円。
「……」
次の瞬間。
表示される。
「……は?」
声が、漏れる。
チャンネル。
その画面。
「……」
動画が、ない。
ひとつも。
「……」
スクロール。
何度も。
確認する。
「……」
ゼロ。
「……なんで」
喉が、乾く。
手が、少し震える。
「……」
設定を開く。
通知。
メール。
「……」
そこに。
並んでいる。
『ガイドライン違反により削除』
『虚偽情報の拡散』
『危険行為の助長』
「……」
理解が、遅れてくる。
「……全部か」
呟く。
全部。
消されている。
「……」
再生数。
コメント。
収益。
全部。
「……」
指が止まる。
動かない。
「……」
次の通知。
『チャンネルは凍結されました』
「……」
画面を見つめる。
しばらく。
何もできない。
「……」
息を吐く。
長く。
ゆっくり。
「……」
終わった。
それだけは、わかる。
「……」
スマホを置く。
音が、小さく響く。
「……」
静か。
部屋。
何も変わらない。
なのに。
「……」
空っぽだ。
中身が。
全部、抜かれたみたいに。
「……」
笑いが、漏れる。
小さく。
「……はは」
乾いた音。
「……はやいな」
あまりにも。
あっさりと。
「……」
机の上。
パソコン。
開く。
ログイン。
「……」
同じ。
何もない。
痕跡すら。
残っていない。
「……」
消されている。
完全に。
「……」
指が止まる。
次に何をすればいいか。
わからない。
「……」
収益。
頭に浮かぶ。
今月。
来月。
その先。
「……」
生活。
家賃。
光熱費。
未開封の封筒。
「……」
視線が、机の隅に向く。
そのまま。
逸らす。
「……」
スマホが、震える。
通知。
「……」
開く。
SNS。
「……」
コメント。
メッセージ。
『全部嘘だったんだろ』
『やっぱりフェイクか』
『通報されて当然』
「……」
スクロール。
止まらない。
『信じてたのに』
『詐欺師』
『消えてよかった』
「……」
指が、止まる。
「……」
胸の奥が、じわっと重くなる。
怒りじゃない。
悲しみでもない。
「……」
空白。
それに近い。
「……」
全部。
なくなった。
金も。
数字も。
居場所も。
「……」
残っているのは。
「……」
それだけ。
記録。
あの赤い点。
「……」
視界の端。
——REC。
微かに、光る。
「……」
あれは。
消えていない。
消されていない。
「……」
ゆっくりと、立ち上がる。
足が、少し重い。
「……」
部屋の中を見渡す。
何もない。
何も変わらない。
それなのに。
「……」
もう戻れない。
前には。
「……」
スマホを、もう一度手に取る。
画面は暗い。
何も映っていない。
「……」
小さく、呟く。
「……上等や」
誰に言うでもなく。
「……」
その声は。
思ったより、低くて。
静かだった。
視界の端。
赤い点。
——REC。
それが。
今までで一番、はっきりと光っていた。




