■第21章:対立
部屋を出たあとも。
頭の中は、静かだった。
「……」
さっきの男。
椅子に座っていた。
笑っていた。
壊れていた。
「……」
あれが、現実。
あれが、結果。
「……」
理解は、している。
理屈も。
危険性も。
「……」
それでも。
足は止まらない。
「……どこ行くねん」
前を歩く男に言う。
「戻る」
短く。
「……どこに」
「元の場所に」
「……」
曖昧な答え。
だが。
それで十分だった。
「……」
数秒、沈黙。
歩く音だけが響く。
「……なあ」
口が、勝手に動く。
「……あいつ、戻らんのか」
椅子の男。
あの状態。
「戻らない」
即答。
「……」
予想通り。
それでも。
胸の奥が、少し沈む。
「……」
「処理される」
「……は?」
思わず、足が止まる。
男も止まる。
振り返る。
「……今、なんて言った」
「処理する」
「……」
頭が、一瞬だけ真っ白になる。
「……消すんか」
「……」
否定しない。
それが、答え。
「……」
喉が、ひどく乾く。
「……それでええんか」
低く言う。
「……」
男は答えない。
「……あいつは、生きてるやろ」
「……」
「壊れてるだけやろ」
「……」
言葉が、荒くなる。
「……それを消すんが、管理か?」
「……」
沈黙。
数秒。
「必要だ」
それだけ。
「……」
何かが、切れる。
「……ふざけんな」
自然に出る。
抑えられない。
「……」
「何が必要や」
「……」
「何が維持や」
「……」
男は動かない。
ただ見ている。
「……」
言葉が止まらない。
「……見せへんかったらええやろ」
「……」
「最初から隠しとけば、誰も壊れへんやろ」
「……」
「なんで触らせんねん」
「……」
そこで。
初めて、男が答える。
「完全には防げない」
「……」
「記録点は、どこにでもある」
「……」
「偶発的に触れる人間は、必ず出る」
「……」
電柱。
あのとき。
思い出す。
「……」
「だから監視する」
「……」
「発見したら、制限する」
「……」
理屈は通っている。
理解できる。
「……」
だが。
それでも。
「……だから消すんか」
「……」
「壊れたら終わりか」
「……」
沈黙。
それが、答え。
「……」
笑いが、漏れる。
乾いた。
「……雑やな」
「……」
「人の扱いが」
「……」
男の目が、わずかに細くなる。
「では、どうする」
「……」
問い。
まっすぐ。
「全員を救う方法があるのか」
「……」
言葉が詰まる。
ない。
そんなもの。
「……」
「ないなら、選ぶしかない」
「……」
「多数を守るか」
一拍。
「少数を切るか」
「……」
静かに、突きつけられる。
「……」
答えられない。
だが。
それでも。
「……あいつは、その“少数”やろ」
「……」
「澪も」
「……」
空気が、少し変わる。
「……」
男は、何も言わない。
「……」
その沈黙が。
すべてを肯定している。
「……」
胸の奥が、熱くなる。
怒り。
それだけじゃない。
「……」
理解してしまったことへの、苛立ち。
「……」
それでも。
口は止まらない。
「……隠すなや」
低く。
はっきりと。
「……」
「真実を」
「……」
「見せろや」
「……」
男が、わずかに目を細める。
「その結果が、あれだ」
短く言う。
「……」
あの男。
笑っていた顔。
「……」
それでも。
「……それでもや」
即答。
「……」
「知らんまま終わる方が、よっぽど嫌や」
「……」
声が、強くなる。
「……選ばせろや」
「……」
「見るか、見んか」
「……」
「決めるんは、俺らやろ」
「……」
沈黙。
長い。
重い。
「……」
男が、ゆっくり口を開く。
「お前は」
一拍。
「すでに選んでいる」
「……」
言葉が、刺さる。
「……」
否定できない。
ここまで来て。
もう。
戻れない。
「……」
それでも。
大輔は、笑う。
ほんの少しだけ。
「……なら、最後まで行くわ」
「……」
男は、何も言わない。
「……」
視界の端。
赤い点。
——REC。
それが。
強く、点滅する。
まるで——
録画が、止まらないと示すみたいに。




