■第20章:真実
目隠しは、されなかった。
意味がないからだろう。
「……」
歩かされる。
腕の拘束は外れている。
だが。
逃げられない。
それは、わかる。
「……どこ行くねん」
前を歩く男に言う。
「見る必要がある」
それだけ。
「……」
短い廊下。
無機質な壁。
音が、吸われる。
窓はない。
「……」
ドアの前で止まる。
無言で開く。
「……」
中に入る。
少し広い部屋。
明るい。
白い。
その中央に——
「……」
人がいる。
椅子に座っている。
固定されている。
いや。
座らされているだけだ。
「……」
顔が、動く。
こちらを見る。
目が合う。
「……」
笑っている。
ゆっくりと。
不自然に。
「……お前」
思わず、声が出る。
「……見える?」
男が、そう言う。
椅子の男。
年齢は、三十前後。
やつれた顔。
目だけが、妙に開いている。
「……見えるで」
「よかった」
その男が、答える。
こっちを見たまま。
「……」
違和感。
強い。
「……何してんねん」
問いかける。
男は、少し首を傾ける。
「……見てる」
「……何を」
「全部」
「……」
言葉が、軽い。
内容と、合っていない。
「……ずっと?」
「うん」
笑う。
「止まらへん」
「……」
背中が、冷える。
「……」
そのとき。
男の視線が、ずれる。
大輔の後ろ。
何もない空間。
「……あ」
小さく声を出す。
「……そこ、おるやろ」
「……」
何もない。
誰もいない。
「……今、見た?」
嬉しそうに言う。
「……」
答えられない。
「今、ちょっとズレた」
「……」
言っている意味が、わからない。
だが——
わかってしまう。
あの感覚。
ズレ。
重なり。
「……なあ」
男が、続ける。
「どっちが本物やと思う?」
「……」
言葉が、詰まる。
「さっきの俺と、今の俺」
「……」
意味が、崩れている。
「……どっちも、ちゃうかもな」
笑う。
乾いた音。
「……」
視線が、また動く。
空間の一点に固定される。
「……ああ」
小さく、息を漏らす。
「……これ、ええわ」
「……」
完全に。
壊れている。
「……」
大輔は、何も言えない。
ただ見ている。
「……」
そのとき。
横から声。
「三日だ」
「……」
振り向く。
男。
無表情。
「……は?」
「三日で、こうなる」
「……」
言葉が、重く落ちる。
「観測を続けた結果だ」
「……」
頭の奥が、じん、と痛む。
自分のことを言われているみたいで。
「……止められへんのか」
小さく言う。
「無理だ」
「……」
「自分で止めるしかない」
「……」
視線が、椅子の男に戻る。
まだ笑っている。
何かを見ている。
ここじゃない、どこかを。
「……」
男が続ける。
「記録は、無限に近い」
「……」
「人間の脳は、それに耐えられない」
「……」
当然のこと。
だが。
実際に見せられると。
重さが違う。
「……」
「だから、隠す」
「……」
「触れさせない」
「……」
「必要なら、消す」
「……」
澪の顔が、浮かぶ。
「……」
歯を食いしばる。
「……それが正しいって言うんか」
低く、問う。
男は、少しだけ間を置く。
「正しいかは、関係ない」
「……」
「そうしないと、崩れる」
「……」
「人間も」
一拍。
「社会も」
「……」
静かに、響く。
「……」
反論できない。
理屈としては。
わかる。
わかってしまう。
「……」
それでも。
口が動く。
「……あいつは」
澪。
「……止めようとしてたんやろ」
「……」
男は答えない。
「……それを」
言葉が、震える。
「……消したんか」
「……」
沈黙。
それが、すべてだった。
「……」
拳を握る。
震える。
「……」
視界の端。
赤い点。
——REC。
それが。
静かに、点滅している。
まるで——
まだ見せるものがある、と言うみたいに。




