聖域に眠る秘密
――ザッ…ザッ…ザッ…――
〝聖域〟は…確かに、読んで字の如く〝聖域〟と評するに相応しい〝空間〟だった…。
――キラキラキラッ――
澄んだ魔力が豊富に満ちているのだろう、そこかしこに〝下級精霊〟が姿を現している。
聖域を護る様に境界は引かれ、其処には常に無数の魔導機が駐在し、境界に踏み入れようとする観光客達へ警告を告げる任に就いていた。
平穏な国の、その創設が始まった〝最初の場所〟として…其処は確かに、〝神聖な〟…彼等国民が大きな誇りを抱くに相応しい場所だった…。
「何も知らなければ、ただの観光地として楽しめたんだけどね…」
「「「「……」」」」
アイリスの言葉に、俺、ルイーナ、アンフォート、ナリアは沈黙の肯定で返す…聖域の中に居ながら、俺達の顔には険が張り付き…離れないで居た……何故なら、俺達は既に知ってしまっているからだ。
――この聖域に眠る…忌むべき魔女の存在を――
その存在を知ってさえいなければ、俺達はこの場所に刻まれた、仕掛けに気付くことさえ無かっただろう…。
この土地を満たす聖なる魔力の源に…霊樹の幹が使われている事も。
この土地を隔てる境界と装飾の様に飾られた道、その形状が〝結界術〟の陣を基礎に創られた〝仕掛け〟である事も。
この区域を警護しているのが、〝魔導機〟である理由も。
巧妙に隠され人の目に触れず、今に至るまでその存在を嗅ぎ取られずに居た…その執着的、病的と言える〝対策〟を、そうと知らずに見ていただろう。
――ザッ…ザッ…ザッ…――
色とりどりの花で覆われた道を進む…俺達の目指す場所はただ1つ…この広場の〝中心〟だ。
「……アレだな」
花の香りで満ちた道を進む事、暫く…俺達は一際強く放たれる〝聖なる魔力〟を一身に受けながら…〝ソレ〟を目にする…。
――……――
ソレはポツンと建てられた、小さな〝集会場〟…純白の石造りで建てられ、緑が巻き付いたその集会場の扉は開かれており…その奥には〝霊樹〟を模した壁画と共に、〝凄まじい力〟を放つ〝霊樹の幹〟が鎮座していた。
――ガッ――
その集会場へ続く階段を俺達は進む…いや、進もうとしたその時。
――ズキッ――
「ッ!――」
「!…レイド、どうした?」
俺は唐突に奔る胸の痛みに顔を顰め…一瞬、身体の動きが鈍くなる…ソレに目敏く気付いたルイーナが少し心配そうに俺を見るが…俺はソレに大した事は無いと返答する。
「――いや、問題無い…それよりも、中を調べるぞ」
俺はそう言うと、既に痛みの引いた身体を動かし…集会場の中へ足を踏み入れる…。
――カッ、カッ――
室内に入れば、より一層強い魔力が満ちているのを感じ、その魔力の性質故か…身体が軽くなる様な錯覚を覚える…だが、そんな力が有ったとしても、俺達の中にある〝緊張〟が解される事は無かった。
「ふむ……一見すると、何も無いように見えますね…」
「妾の目にもソレらしい物は見当たらんのう…」
「ナリア、何か分からない?」
ざっと辺りを見渡せど、有るのは丁寧に整理された装飾と卓上、そして霊樹の幹だけ…それ以上は何も情報を拾えないこの部屋の〝平凡さ〟に、三人はナリアへ視線を送る。
「いえ…私も良く分からないのです…聖域に入ったのは、私がまだ幼い頃…お姉様と一度見に来た位ですので…」
「…ふむ」
ナリアの言葉を聞きながら、俺もまた…この部屋の〝仕掛け〟を探し、部屋中を練り歩く。
確かに…この場所こそ、尤も〝浄化の力が強い〟…場所だ…しかし確かに、俺の目から見てもこの部屋そのものは何の変哲も無いただの部屋…。
魔力の流れにも不自然な箇所は無く、まるで〝何も無い〟かの様にこの部屋は静寂を恣にしていた。
(この場所の構造から見て間違い無く〝此処〟が陣の中心だ…必ず此処に例の〝魔女〟に由来する物が有る筈だ)
そんな静寂の中、俺は頭の中で湧き出す疑問を斬り伏せながら…集会場の壇上と、その背後に有る〝霊樹の幹〟に目を向ける。
「――あぁ…そうか」
そして、思考の末…俺は考えるも単純な結論に達し…思わずそう呟く。
「何?…何か分かったのかの?」
その言葉に、ルイーナがそう言い…他の皆も俺を見て疑問を浮かべる。
「――何か分かった…と言うかは、〝見落としていた〟と言うべきだな」
俺は疑問を浮かべるルイーナ等へそう答えながら、荷物からこの聖域の地図を取り出し…ソレに線を引いていく。
「この〝聖域〟の目的は〝結界術〟と〝浄化〟による〝魔女の浄化〟だ…魔女の力の程度がどれほどかは分からんが、この聖域の結界術自体はかなり〝高度〟に作られている」
俺達が歩いて来た道と此処をつなぐ他の道…草と花に紛れて作られた刻印、地図の聖域に線を描く程、その結界はより完成度を上げていく。
「――結界術、特に〝封印〟を目的にした物は、陣の中心に〝封印対象〟が置かれる…コレは優れた封印術の使い手がやる手法だが…封印したい物体を物理的にも隠蔽する場合、封印術の使い手は、〝対象〟の位置を〝ズラす〟」
「え?…でもそれじゃあ封印は機能しないでしょ?」
「――封印するには〝術の中心〟に対象が無いと駄目だから――」
「――〝機能する〟…其の為には、少しの手間が掛かるが…十中八九、賢者達は〝コレ〟をした筈だ」
俺はそう言うと集会場から出て、周囲に有る〝手掛かり〟を探し視線を彷徨わせる…。
「――っ、見つけた」
そして、俺は探していた〝手掛かり〟を見つけると…集会場の周りに作られた物の中で…一際〝異質〟なソレへ歩を進める。
「この場所は聖の魔力で満たされている…だからこそ、並大抵の魔物や魔族は近付けないし、人間であってもおいそれと侵入出来無い…」
ソレはこの集会場を囲む様に創られた五つの像…その1つに、俺は目を付けた。
「――だから今まで、何百、何千年…隠し通せた…この〝仕掛け〟を」
その像には、一人の若い森人の娘が掘られていた…その顔は凛々しく、美しく…長の気迫を石像越しにも感じ取れる様だった…だが、この像が他と決定的に違う点…それは―。
「〝この像〟だけが…〝聖の魔力〟を纏っていない」
そう、他の石像からは微かに感じ取れる聖の魔力が、この石像からは感じ取れないのだ。
「――偶然ではない…〝聖の魔力〟は〝瘴気〟を中和する…中和に消費された分、〝聖の魔力〟は陰り、結果聖の魔力は薄くなる…つまり――」
俺は石像に触れると、微かに感じたその違和感に確信を持ち、その石像に魔力で〝言葉〟を刻む。
「此処が〝封印物に通じる道〟だ」
――〝追放の魔女〟――
と……すると、その石像は刹那姿を変える…俺の後ろを追ってきた皆を驚かせる。
「――良し、行くぞお前達」
俺がそう言い進んだ先には、石像では無く…地面へ通じる扉が姿を現していたのだから。




