聖域と魔女の骸
――カッ…カッ…カッ…――
聖域の下には…何処までも続く螺旋階段が続いていた…魔術によって維持されているのか、その場所には埃一つ綻び一つ無く、時が止まった様に、その部屋は何とも言い難い〝無音〟を保っていた。
「〝聖域〟の下が、こうも薄暗い場所であったとはのう…」
「でも、コレってどう言う事なの?」
「どうやって聖域の下に〝封印〟してたんですか…?」
そんな、無音な〝睡り〟を妨げるのは今を生きる生者達の声…その声が紡ぐ疑問は、俺の耳に届き…俺はその疑問に応えるために閉ざしていた口を開いた。
「〝理屈〟自体は簡単だ…封印術の起動には〝封印対象〟と〝拘束術式〟が居る、術式の規模は大なり小なり幅が有るが、〝術式の中心に封印対象が必要〟と言うのが封印術における絶対の規則だ」
そして、言葉と共に指で空間に図式を描きながらルイーナとアイリスへ告げる。
「――だが、言ってしまえば〝術の中心に有る〟と言う条件を満たしてしまえば、封印は機能する…」
空中には平面に構築された円が生まれ、その中心には球体が構築され…そこから更に図式を拡張して、俺は皆へ分かりやすいよう角度を変えてソレを見せる。
「この封印は〝術を観測する目〟を作る事で、この〝前提〟をクリアした…陣の中心を〝二次元的〟に定義する本来の封印術と違い、〝中心を観測する目を作る〟事で〝三次元〟に術を拡張した…コレによって、本来は〝固定〟されていた術式の対象を〝上下〟にズラす事が出来るように成る…コレがこの〝魔術陣〟に使われる手法だ」
其処には平面に創られた陣の、その中心を挟む様に作られた二つの〝点〟が有り、ソレがもう片方の点を繋ぎ〝線〟を作る。
「――どうだ、理解出来たか?」
俺がそう言い後ろの二人へ視線をやると、二人は頷き、俺の作った図式を目に焼き付ける…そんな、軽い講義の様な説明を終えた頃…長い間下っていた階段の下に〝終点〟が見える。
――ズオォォッ――
其処には、階下へ通じる〝扉〟とその扉に刻まれた〝魔力の紋様〟が俺達を出迎える様に待っていた。
「魔術で塞がれているな…コレは……〝旧森人語〟か…確か、言語辞典を鞄に詰めていたな――」
その扉の紋様と、其処に刻まれていた言葉の文体に俺はそう言い鞄に手を伸ばす…しかし、その行動は次の瞬間、俺達の前に立つナリアの行動に止められる。
「私にお任せ下さい、レイド様…森人の言葉には心得が御座います…私も御手伝いをさせて下さい」
そう言い、俺へ視線を送るナリアに…俺は一瞬思考を巡らせ、それから鞄から手を引きナリアへ言う。
「分かった、頼む」
「ッ…お任せを」
その言葉にナリアはそう顔を綻ばせると、それから顔を引き締めて、その紋様の〝言葉〟を読み解いて行く…曰くは。
〝この門は悪しきを阻む最後の砦、邪なる者は開く事敵わず〟
〝この門は高貴なる者によって開かれん〟
〝扉を開く者は、純粋なる善で無ければならない〟
〝扉を開く者には強き勇者が共にあらねばならない〟
〝扉を開く者には、高貴なる資格が求められよう〟
〝三つの条を揃えし者よ、扉閉ざす枷に触れよ〟…〝さすれば、国に眠りし禁忌への道は開かれる〟
…と、紡がれた言葉には警句が有り、その最後に刻まれた言葉に滲んだ願望を俺達は聞き取り、沈黙する。
「――皆様…」
その沈黙を打ち破るのは、〝ナリア〟…つまり、〝高貴な資格者〟だ。
「〝開いても〟…〝よろしいですか〟…?」
その問いに、俺は頷く…元より〝手掛かり〟はこの先に有るのだから、その問いに頷かない訳が無い。
「……では、〝開きます〟」
ナリアはそう言うと、その手を紋様に触れる…すると紋様から放たれた魔力が、ナリアの身体へ流れ込み…その後、一際強い輝きを放つと、空へ昇るように消えて行く。
「…下がっていろ」
役目を終えたナリアへ、俺は後ろへ下がる様告げると、ナリアの代わりに閉ざされた扉を開く…その瞬間。
――ブワッ――
「ッ――グゥ…!?」
扉を開け放つと同時に、此方へ流れ込む〝高密度の浄化〟の魔力に、思わず目眩がする…ソレを堪え、その中へ踏み入ると…其処には…。
――キィィィィンッ――
大地に陣を張り、その空中に創られた銀の十字架へ魔力の鎖によって拘束された〝女の骸〟が其処に有った。
「アレが〝魔女〟か…」
かくして俺達は…この街に根を張る病の元凶…その〝骸〟へと相対するに至った。
●○●○●○
――ズズズズズッ――
「私を殺しても無意味と知れッ、ナイル!」
目の前で、〝魔女〟は聖なる剣に貫かれ…死へと向かう…魔女の身体からは悍ましい瘴気が溢れ、それは聖剣に焼かれながらも醜い〝怪物〟の姿を象る。
「――お前達に災いあれ!――私を追放したお前達に大いなる災禍が有らんことを――〝ナイル〟!…貴様の子孫、その末の末に至るまで、我が呪詛が晴れることは無いッ、貴様の一族が真に滅びるその時まで…!」
魔女の身体が、その大半が崩れてゆく…魔女が紡ぐ呪詛は獣の形を取り、その口を大きく広げて吠えると空へと走り去ろうとするが…やがて浄化の力によって霧散する。
「――クッ、フッフッフッアハッハッハッハッ!――私の身体が滅びようとも、私は何れ蘇る…そして貴様等の行った裏切りを、未来の民共の滅びとして返してやるッ…後悔に…震え……救いを乞うが言い…無意味だろうが……な…!!!」
そう言うと、魔女の瞳が色褪せる…やがて静まり返った玉座の間で、眼下を見下ろす国王は、顔を顰めて傍に控える賢者へ告げる。
「〝バーム〟、〝エルサ〟…〝魔女〟を浄化せよ…そして、奴の忌むべき予言を阻め」
「「ハッ…!」」
賢者達は魔女へ祈りを紡ぐ…その力と共に、玉座の間を霊樹の根が包んでゆく…しかしそれでも、国王の顔には安堵の色一つ、浮かぶ事は無かった。




