禁忌の書庫と魔女の記録
――カッ…カッ…カッ…――
静寂が遊ぶ、石畳の道を…俺達は歩いていた…。
――カッ…カッ…カッ…――
その道の先を行くのは、他ならぬ女王自身であり…その立ち居振る舞いは、俺達を前にして、余りにも無防備だった…だが。
「――改めて、言っておく」
女王は背を向けたまま、俺達へそう声を紡ぎ…歩を止める…その声が持つ〝真剣さ〟は、ただ女王として、娘を想う者としての物とは別に、〝種〟としての…〝信仰者〟としての〝真摯さ〟の様な物を俺達に感じさせた。
「――〝ナリア〟…お前も心して聞くがよい」
振り返る女王はそう言うと、俺達の隣で己の言葉を聞くナリアにもそう、一言紡ぎ…その場に居る者全てに告げる。
「この扉は〝霊樹〟の元へと繋がっている」
そう言う女王の背には、この城のどれとも毛色の違う…古く、重厚な〝巨大な門〟が聳えており、その門から滲み出す〝魔力〟は…隔てられて居ても尚身を強張らせてしまう程の威圧感が有った。
「――その霊樹の道の外れに、〝禁書庫〟は建てられているのだ」
そんな気配に少しの畏敬を抱いていると、女王はそう言い…その門に手を掛ける。
「――〝決して〟…霊樹へ不敬を抱くで無いぞ…霊樹は我等の悪意に反応し、侵入者を排除しようとするのだ…留意しておけ」
そして、女王はそう言い終えると…その手から魔力を門へ放つ…すると。
――……ゴゴゴゴゴ…――
重厚な扉は音を立ててゆっくりと開き始める…その隙間から放たれる膨大な〝魔力〟が俺達を覆い尽くし…その魔力から感じ取れる〝霊樹の生命力〟に、思わず後退りたくなる程…俺達は感動にも似た心のざわめきを覚えていた。
「さぁ、付いて来い…案内しよう」
そして、女王の案内の元…俺達は〝霊樹の領域〟へと一歩を踏み出した…。
――パキッ…パキパキッ…――
「――〝霊樹〟も、賓客が珍しい様だな」
少し進むと…俺達は此方へ伸びてくる枝葉に囲まれる…ソレに対し、女王はそう面白そうに言い、枝葉に纏わりつかれる俺達へ、チラリと視線を向ける。
「…〝侵入者〟は、それなりに居るらしいな」
そんな女王の言葉に俺はそう返し、道端に捨て置かれた〝枯れ枝〟を見る。
「まぁな……大体十年に一度程の頻度で、〝霊樹〟を狙う物が侵入を試みる…大抵は我の兵が処理するが、極稀に厄介な手練が我が包囲を抜ける事が有る…まぁ、そんか連中は例外無く霊樹によって生命を吸い取られたが」
「そんな存在に纏わりつかれるのは気が気でないんだが…」
女王の言葉に俺がそう肩をすくめて言うと、女王は笑いながら俺へ返す。
「ハッハッハ…安心せよ、正式な手順を踏めば霊樹は怒らん…貴様等釜不敬を働かなければ賓客として霊樹も饗してくれる」
そうして進む事暫くして、俺達の目に〝ソレ〟が見えた時…女王は言う。
「――さて、そろそろ着く…アレが〝禁書庫〟…我が国へ害を齎しかねん禁忌を封じ、隠匿し、歴史の闇から抹消する為の〝廃棄場〟だ」
その言葉の先には、霊樹の根によって覆い隠され…しかし、よく目を凝らせば確かに存在する〝建物〟が有った。
――ガガガガッ――
「……〝アレ〟は?」
そんな建物の姿が鮮明に見えて来る程…俺達は、その建物の入り口に立ち塞がる〝その存在〟に目を奪われ、女王へと問う。
「〝アレ〟は〝書庫の番人〟よ、〝霊樹〟が生み出した〝木人形〟…見てくれに騙されるな…下手な魔導機より遥かに強力だぞ?」
「――ふむ、確かにのう」
女王の太鼓判にルイーナは肯定し、その木人形を面白そうに見つめる…俺達も同じく、その木人形が放つ〝気配〟を悟り、女王の言葉に頷く。
「――〝番人〟よ、〝通る〟ぞ?」
「「…(コクンッ)」」
やがて入り口にまで近付くと、女王は此方を見据える二人の木人形にそう命じる…その命令を聞き届けると木人形はコクンと頷いて、書庫への道を開く。
「さぁ、付いて来い…」
そして、俺達は〝禁書庫〟の中へと足を踏み入れた…。
○●○●○●
――ザッ…――
「「「「ッ…!」」」」
「ッ――ギャウ!?」
その中に足を踏み入れた瞬間…女王とその娘を除く五人と一匹はその感覚に顔を顰める。
「――ふむ…魔力を縛られておるな」
「身体も重い…肉体の方にも何か拘束が付けられたな」
そして精霊と長の二人がそう言うと、女王は頷きながら五人へ告げる。
「幾ら〝賓客〟と言えども、此処は〝国家の最重要施設〟…当然ながら貴様等には〝拘束〟を付けさせてもらう…動き辛いだろうが受け入れよ」
「御母様、私は何とも無いのは何故ですか?」
「〝我が許可した〟からよ…我が認めた真に信頼のおける者には〝拘束〟を付けぬ様にしてある」
女王はそう言うと、領域内な待機している四匹の木人形を連れて、彼等五人へ告げる。
「――さて…それでは手早く目的を済ませるとしようか」
女王がそう言うと、木人形は女王の魔力を取り込み…四匹の内の一匹が自律的に行動し、その書庫の棚から〝一冊〟の書物を取り出す。
「〝追放された魔女の記録〟…コレが目当てのもので有ろう…さぁ、読むが良い」
ソレを見た女王はそう言うと、男へその書物を渡し…書庫に備えられた椅子に腰掛け、王女を隣に座らせる。
「――言っておくが、妙な気は起こすでないぞ?」
「あぁ、分かっている」
そんな女王の警告に、男は頷きで返すと…その書物をテーブルへ持っていき…他の仲間達と共に、その暗く乾いた…不気味な〝黒い書物〟の留めに手を掛けた…そして。
――バサッ…――
長年暗闇へ葬られ、開く事の無かった〝記録〟が…人々の目に晒されるのだった…その内容は―――。




