長く、永く、眠りは続く
何が有った?何が起きた?…そんな問答は今する事では無い…原因は明白だった。
「〝ルイーナ〟!」
俺は荒く息を吐きながら、全身へ這い進む呪詛を身体に纏ったレリオットへ〝浄化〟を施しながらルイーナを呼ぶ。
「ゴホッ…レイド殿…!」
「喋るなッ…瘴気の侵食が酷い…おいルイーナ、お前はこの呪いを解析しろ、俺が浄化する!」
俺は慌てて駆け付けたルイーナへそう言い、レリオットにへばり付く〝泥の様な呪い〟を浄化で溶かし消してゆく。
「――ルイーナ、この呪いは何だ?」
「〝疾病の呪詛〟じゃな…血液か、体液か…ソレを媒介にした〝呪毒〟の類じゃ…痣の触れた場所を腐らせ、膿ませ、病せる…じゃが、治せない呪詛では無い」
ルイーナの言葉を聞きながら、俺は荷物から聖水等を取り出し、浄化を補助させる。
「口を開けろレリオット…コレを飲み込め、暫くの間痛みは感じなくなる」
そして、苦悶に顔を歪ませるレリオットへ懐から取り出した丸薬を一つ飲み込ませる。
「ッ――ハァ……ハァ……ハァァァ……感謝します、レイド殿…」
「構わん…今は休んでいろ、肉体の方はまだ治っていない」
そして、俺は呪詛を浄化しながら痛みを鎮め安楽に息を吐き出すレリオットへそう言い、ルイーナと肉体の修復を始める。
「休む前に…レイド殿……〝異界の亡霊〟です…」
そんな俺達を見ながら、レリオットは静かに…一言一言を正確に伝えようとするかの如く俺達へと伝える。
「ッ…遭ったのか…?」
その言葉に、俺が視線を向けると…レリオットは小さく頷き…握り締めたその手を私へ差し向ける。
「はい…報告通りの個体でした…一度、二度…殺しましたが…死なず…追い詰められましたが……〝コレ〟を…」
その、レリオットの言葉に俺がその手から〝中の物〟を受け取ると…レリオットは続ける。
「コレは……〝ペンダント〟?」
「昔…リリア王女様より賜った贈り物、に御座います…奴は…コレを見ると、逃げて行きました…そのお陰で私は此処に…」
其処には、血で汚れている物の毎日丁寧に手入れをしているのだろう…所々に全く色褪せない銀の細工を施された上等なペンダントが俺の手に有った。
「ッ……〝そういう事〟か?」
ソレを見て、そしてレリオットの言葉を聞いて…俺は静かにそう問うと、レリオットは微かに頷き…小さく言う。
「恐らくは…」
「……分かった、良くやったレリオット……〝後は任せておけ〟」
俺はレリオットの言葉に、そう言い…レリオットから〝託された物〟を懐へ納め…レリオットの〝頼み〟を受領する。
「……有り難い…」
ソレを見届けると、レリオットは小さくそう呟き…極限の疲労を癒すため、静かに目を閉じ…微かな寝息を立てる。
「〝ルイーナ〟…レリオットの治療は俺がやる……お前は〝此方〟を調べろ…〝頼む〟」
「ッ…〝了解〟じゃ」
一先ず、窮地を脱した事を確認すると…俺はその視線をレリオットからベッドの上で眠る娘へと向け、ルイーナへ彼女を調べる様指示を出す…そして。
「〝女王〟…一つ二つ、頼みたい事が出来た」
俺は女王へ視線を移し…俺達の様子を見守っていた女王へ頼みを口にする。
「――何だ」
「暫く、この部屋には近付かないでくれ…確証はまだ無いが、〝リリア王女〟は間違い無く、〝例の亡霊〟と関係が有る…下手をすればお前達にも亡霊の手が届きかねん」
「ッ……ソレは…」
俺の頼みに女王は少し考える…その葛藤は、子を持つものなら当然の葛藤でありソレを否定する事は出来無い…だが。
「〝頼む〟…暫くは我慢してくれ…〝糸口〟が見えて来たんだ…此処で余計な問題を起こして解決が遅れるのは避けたい」
俺は葛藤する女王へ追ってそう言うと…悩みに悩んだ女王は、その葛藤の末に…小さく納得し…頷く。
「――分かった、言う通りにしよう…それで、もう一つは?」
「――〝禁書庫〟へ入りたい…この国にも有るだろう……人目に触れるべきでは無い〝禁じられるべき書物〟の保管庫が」
しかし、二度目の頼みには女王とて容易く頭は横に振らない…。
「それは難しい…確かに我が国にも〝禁域〟は在る…しかし其処に貴様等を入れる訳には行かん」
その至極当然な言葉に、俺は憤懣を抱く訳もなく当然だと頷き、女王へ返す。
「だろうな…だから、2個目の頼みは後で良い……調べられる物を調べた後で…女王、お前に判断を委ねる…それで良いか」
俺がそう言うと、女王は暫し沈黙し俺へ視線を合わせる…俺はその視線に真っ向から答え、目を逸らさないで居ると…女王は、静かに俺へ告げる。
「――良いだろう、その条件ならば一考しよう」
その女王の言葉に、俺は頷くと…その視線を再びレリオットへ移し…その治療を再開する……その隣では――。
○●○●○●
「……」
妾の前には、上等な寝具で眠る…娘が居た…苦悶も無く穏やかな寝顔…それと同時に大事な何かが欠けた様な儚さ、脆さを感じさせるその美貌は、成る程…正しく〝呪われた眠り姫〟と言えよう…等と、妾は考える。
「……確かに…〝呪詛〟を纏っておるな」
妾は、その娘の眩しいほど白い柔肌に触れながら…そう呟く。
(間違い無く〝呪術〟の類に侵されておる…そして、その呪詛の規模に対して、その効果は余りにも小さい)
今までの情報だけならば、何故これ程まで無駄の多い呪詛を?…と考えていただろう…だが、今は違う。
『お前は〝此方〟を調べろ………〝頼む〟』
あの時、妾は〝共有〟を通じてレイドの思考を理解した…ソレ故に、妾等は半ば確信的に、〝調査〟を進める。
――プチッ、プチッ、プチッ――
その娘の胸元を解き、その胸元を探る…其処にはやはりその娘を侵す呪印が有り…妾は、その呪印に侵された身体の…胸に手を置き…目を閉じる。
(……やはり…か)
そして、次の瞬間…妾の知覚が告げる事実に、妾はそう驚き無く、思慮し…娘から離れる。
「……〝レイド〟…〝終わったぞ〟」
「嗚呼……〝此方〟ももうすぐ終わる」
そして、妾が振り向くと…レイドは此方を見て小さく頷く…どうやら、レイドも〝共有〟で知り得たらしい…。
「一先ず、一度情報を整理する…女王…悪いが一度戻らせてくれ…情報を纏めて明日、報告する」
妾等は、ソレから女王へそう言うと…被術者の眠る部屋へ結界を張り…部屋を後にする。
「――結論から、言ってしまおうかお前達」
そして、その後……宿に戻った妾等は一堂に会し…妾は調査の結果を未だ知らぬ二人へ告げる。
「リリア…被術者の娘は…〝死んでいる〟」




