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冷酷のブレイバー【連載停止中】  作者: 泥陀羅没地
第四章:森の民と魔女の呪い
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女王の待つ城へ

――ヒタッ…ヒタッ…ヒタッ…――


不愉快に滴り落ちるソレを、忌々しい程嗅ぎ慣れた〝臭い〟を…俺は、良く知っている。


〝血の匂い〟だ…それも、ただの血の匂いでは無い。


墨の様に黒く、その匂いを嗅いだだけでえずき、胃酸を吐き捨ててしまいたくなる様な〝腐敗した血〟の匂いだ。


定まらない思考に、唯一理解出来るソレを得て重い瞼が軽くなる…本能のまま…何も違和感を覚える事も無く目を開くと、俺は――。


――ジィッ――


「ッ――!?」


其処に〝亡霊の姿〟を見た…いや、その亡霊が纏う〝死の気配〟を捉えただけだ…姿形は見えるが、その顔を視ることは叶わない…唐突なこの状況に、心臓が凍り付くような感覚に襲われた事を、覚えている。


「お前…は……!?」


身体を動かそうと意識する…だが、その思考に反して、俺の身体は動かない…。


――ポタッ…ポタッ…ポタッ…――


気が付けば、その亡霊は俺の身体に馬乗りになり…その身体を、顔を俺へと迫らせる…真っ暗な闇から零れ落ちる〝血〟が…俺の顔を伝い…そして。


――ピトッ…――


その指が…亡霊の凍る程冷たい指が俺の額に触れ、鼻をなぞり…喉を通る…そして。


――トンッ――


俺の胸の中心…忌々しくも先刻目の前の亡霊に貫かれへ触れると…その瞬間…。


――ズキンッ――


忌々しい〝痛み〟が…俺の胸を起点に全身へ広がってゆく…理解も追い付かぬ内に…その亡霊は闇へ溶け込み…俺の意識もまた、闇の彼方へ消えてゆく…そして、コレが〝夢〟で有ると知覚したその瞬間。


『―――』


俺は何かの音を聞き…その意識を完全に消失させる…。




――パチッ――


目が覚めると同時に、俺は息苦しさを感じて首に触れる〝ソレ〟に手を伸ばす…。


「ん……んん…」

「……ルイーナ…」


其処には、俺の身体へ手を伸ばし…小さく寝息を立てる彼女の姿が有り…俺は前日の夜の出来事を思い出す…。


「……」


――グッ――


寝息を立てるルイーナを置いて、ベッドを離れようとする…しかし、殊の外強い精霊の膂力に阻止され、俺はルイーナの腕に手を掛ける…。


「……ハァ…まだ〝黎明〟か…」


起こすか、起こすまいか…その2択に迫られ…逡巡の後に、俺は抵抗を止め、ルイーナの寝息に耳を傾ける…。


ただ…それだけの時間が過ぎて行く…窓から見える空の〝変化〟が、その時間の長さを物語るまでの間…俺はただの一つとして…〝あの悪夢〟についてを、思い出す事は無かった…。



●○●○●○


――ギィィッ――


「シルヴィア女王陛下」


扉を開けて、私が最も信頼する右腕が…私へ言葉を紡ぐ。


「何だ…レリオット」


私はその言葉にただ、そう問い掛け…その視線を〝ソレ〟へ落としたまま動かない。


「……〝レイド・バルクレム〟一行が、宿を出た様です…恐らく、後半刻もせず到着するでしょう」

「……そうか」


臣下の言葉へ、私はただ静かに…短くそうだけ応え…その手を、其処で〝眠る娘〟の頭へ触れさせて…沈黙する。


きめ細やかな髪、白く柔らかな肌…整った顔には、今は亡き〝父親〟の愛嬌を感じさせる…己と良く似た娘の、その儚さは、忌々しくも娘の身体に染み付く〝痣〟により、よりその神秘的で悲劇的な〝眠り〟を強調する。


「……レリオット…〝例の件〟はどうなっている」

「ハッ…本日中には入手出来ると…先方からは伺っております」

「――一月と経たずにか…流石、お前が良く利用する〝情報屋〟なだけは有る…良くやった」

「有り難き御言葉」

「――報酬に糸目は付けん、言い値で買い取れ…口止めは――」

「問題有りません…〝蜥蜴〟達は決して口外致しません…彼等の掟は絶対ですので」

「そうか…なら、良い」


レリオットの言葉に私は頷き…一先ず目の前に現れた希望へ微かな安堵を覚える…。


「〝女王陛下〟…そろそろ」

「……嗚呼…分かっている」


レリオットの言葉に、〝私〟はその手を引き…立ち上がる…そして〝我〟は改めて、レリオットへ命じる。


「――レリオット、娘の世話を頼む」

「承知致しました」


そして、見送るレリオットの視線を受けながら…我はその歩みを、己が座する〝玉座〟へと進めるのだった…。



○●○●○●


――ザッ…ザッ…ザッ…――


「〜〜♪」


その鼻歌に、多くの者が視線を集め…その姿にざわつく。


「おい…アレって…」

「嘘だろ…初めて見た…」


その姿を見た者は皆、一様に口を揃えて感嘆の声を紡ぐ…その視線の先には、四人と一匹の〝一団〟が居た。


「〝上位精霊〟…何て美しい御姿だ…」


ある者は、鼻歌交じりに道を跳ねる美女の姿に見惚れ。


――ザッ…ザッ…ザッ…――


「「……」」


「――へぇ…まだ若いのに、やるじゃねぇか」

「あの餓鬼もだ…見かけ以上に〝強い〟ぞ?」


また、ある者はその背を追う〝二人の少年少女〟に興味を覚え。


――バサッ…バサッ…――


「ギギャアッ?」


「オイオイ、見ろよアレ…」

「マジかよ〝竜〟か?…竜の使い魔とか初めて見るぞ…?」


また、ある者は彼等の周囲を悠然と舞う〝小さな竜〟に視線を奪われる…そして。


――〝ザッ…ザッ…ザッ…ザッ…〟――


その場に居た…大半の人間が、息を呑む…彼等の一団の中で…取り分けて強い〝威圧感〟を放つその男の気配に呑まれて。


「……」


――ジロッ――


その視線を受けた者達は、その口を閉じ視線を逸らす…その視線は、彼等一団へ向けられる微かな邪気に反応し、その凍える程冷たい視線は、そんな邪気を意いともも容易く払い除けて行く…。


そんな、人々の目を引く〝一団〟は衆人に一切の関心を払うこと無くその歩を進め、大通りを通り過ぎて〝王城〟へ向かう…やがて、その背は数多の人の背に掻き消され、その姿を無くした街道は、不思議な沈黙の後…何時もよりほんの少し活気に満ちた雰囲気で、日常の中へと戻っていくのだった。



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