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電脳狂戦士 現代ダンジョンに挑む  作者: saikasyuu
電脳狂戦士 鎧を得る
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急変

「それじゃあそろそろ下に・・・あれ?」

「どうかしたんですか日坂さん」

「いや。あの人たち」

「ん?誰です?」


荷物を片付けて今日のメインであるミートタウロスを倒しに下に行こうとしていた。

階段に近づくと、そこにいた冒険者チームがいた。

通常ならまあ会釈くらいはしてそのまま通り過ぎるのだが、日坂さんはそのチームの様子が気になったようだ。


俺もよく見てみると、体にあちこちに怪我をしている。

これだけなら別に冒険者としては普通なことなのだが・・・


「何かあります?」

「あの人たち。多分ここの常駐チームなんですけど」

「ん?ああなるほど。そりゃおかしいですね」


ここの常駐チームはとある食品企業がスポンサーについてるプロ冒険者集団。

彼らは有名ではないが、ここのダンジョンのみに注力しているためその界隈では有名なのだ。

何より彼らはここにきてから長い。それこそ冒険者登録が始まってすぐくらいからここにいるレベル。


そんな彼らが、体のあちこちに怪我?何があった。


「おかしいんですか?」

「はい。皆さん分かると思いますけど。今更五階層とかで怪我しませんよね?わざと攻撃を受けない限りは」

「そうですね。流石に五層だと・・・ああ、そういうことですか」

「あのチームはもうここのダンジョンだけで言うなら負傷するはずがない・・・はずなんですよ」


それは単純にレベルの話だけではなく、ダンジョン自体に慣れているという面もある。

油断にも繋がりかねないが、いくら何でもそれでは考えられないレベルの怪我だ。

そもそも油断が原因ならば大きな怪我が目立つはず。

彼らの怪我は大きくは無いが小さなものが体中にある感じだ。

まるで彼らと同じくらいの実力の何かと戦い辛勝したか、あるいはといったところか。


「ちょっと話聞いてみましょうか」

「そうですね」


もしかすると、ミートタウロスは今回はお預けかもしれない。


俺と日坂さんで彼らに近づく。

彼らは階段の傍で、怪我の処置をしつつ休んでいるようだ。その顔色は悪い。


この手の事は俺より日坂さんがやった方が良いだろうと、日坂さんが話しかける。


「あの。すみません。ちょっとよろしいでしょうか?」

「ん?おや?君たちはこの間ここで撮影していた」

「見られてたんですね」

「まぁね。ここは僕達の庭みたいなものだから」


俺達が近づくとリーダーっぽい人が対応してくれる。

他のメンバーも俺達を見て思い出したらしく、ちょっと驚いた顔になっている。


「それでその。下で何かあったんですか?」

「あはは。恥ずかしい所を見られてしまったね」

「いえそんな。冒険者なんて怪我して当然みたいなものですし」

「そうだね。だけど僕らとしてここでやられるのは恥ずかしいものさ」


まぁ自分の庭っていうレベルで入り浸ってる人たちだからな。

そういうプライドは当然あるだろうな。

実際リーダーの人以外にも大分しかめっ面になっている。

こりゃマジで何かあったな。


「皆さんがその、油断するのは考えにくいんですけどー」

「そうだね。実際してなかったとは言えないが・・・イレギュラーがあってね」

「っ・・・なるほど。罠・・・はここには無いですよね?」

「そうだね。ここにその手の悪質な物は無い。だからこそ、油断していたというか・・・」

「二十層から特殊個体が上がって来たんだよ」

「二十層から!?」

「ああ。松の言う通りでね。何とか退けたけど。この様でね」

「・・・へぇ」


これはこれは。面白い話を聞いた。

二十層。それも特殊個体か。

それもここに常駐している。俺達より年単位で先輩のチームで退けるので精いっぱい。


いいね。何となくいい感じがしてきた。


「君達はこれから下に?」

「その予定だったんですけど・・・」

「やめておいた方がいいね。またいつ上がってくるか分からない」

「そうですよねー。お話ありがとうございます。あ、これ良かったら呑んでください。緑茶ですけど」

「いやありがたい。荷物もやられてしまってね」


ここでさらに情報追加。

彼らが荷物を守れないレベルのモンスターらしい。イイネ!


話のお礼代わりにバッグの中からまだ手を付けていないボトルのお茶を人数分渡しておく。

恐らく彼らの荷物が最低限なのを見て選んだのだろう。

こういう気配りが出来るから、俺より話を進めるのが上手いんだよな。


さて、遠島たちのもとに戻って相談だな。


「何だって?」

「撤収ですね」

「えぇーそんなぁ」

「何かあったのですね」

「二十層の特殊個体が出てきちゃったみたいで、もしかすると暫くここは封鎖かも?」

「うぇぇ。どうにかならないの?」


松来が悲鳴のような変な声を上げている。

まぁ無理もない。

ここが封鎖ってことは、暫くミートタウロスの肉がお預けってことになるのだから。

こいつらは既に野菜をひっこぬいた後だから猶更そう思うんだろう。


「これこれ。あんまり無理言わないの」

「だってー」

「二十層のモンスターというだけでも問題なのに、特殊個体なんて手に負えませんよ」

「まぁ普通はそうだよな」

「・・・戸村君?」

「はい?」

「もしかしてもしかする?」

「もしかしますけど」

「ハァ。やっぱり」


どうも日坂さんには俺が何を考えているかお見通しらしい。

でも今回それに日坂さんが付いてくるわけにはいかない。

何せ今は遠島たちがいるからな。せめて付き添いしてもらわないと。


「俺にとっても練習ってことで、二十六だとそういう話になったじゃないですか」

「だからといって、相手の強さも分からないんだよ?」

「またまたー。あの連中が退けられるレベルなら分かったも当然でしょ」

「それはそうだけど」

「ちょっと戸村何の話してんの?」


遠島が俺と日坂さんの間で交わされた怪しげな会話に入ってくる。

どうも松来へのお小言は終わったらしい。

もうちょい続けてても良かったんだが。

いやあの顔の険しさだと、たまたま耳に入った言葉から何となく察したか?


「ちょっと散歩の相談だよ。大したことじゃない」

「散歩?どこに?」

「下」

「んなっ!?」

「危険すぎます!」

「そうだよね。普通危険だよね」


遠島の驚愕も、小鳥遊の絶句したような言葉も当然の反応だ。

でもそれは彼女たちの一般的な基準の反応に過ぎない。


俺からしたら、もっと危険で危ない戦いを経験している分そこまでだとは思わない。


「というか、話自体は遠島だって知ってるだろ」

「は?・・・研修の時の?」

「そうそう。あれに比べたら余裕余裕」

「それもその通りだから反対もしづらい・・・」


ダンジョンで極稀に出現するモンスターの特殊個体。

その強さはまちまちであり、中には何が特殊なのか分からない様な個体もいる。

今回の場合は常駐チームをギリギリまで追い込める様だからそんな感じではないだろう。


本来ならば、この特殊個体はベテランの冒険者チームが討伐に充てられる。

出現が確認され次第協会に報告が周り、すぐに桜木さんたちの様な面々が派遣される。

その討伐が終わるまではダンジョン自体が封鎖される。

冒険者としてまだ弱い面々が被害に合うのを避けるためだ。

よって今日この時を逃すと、俺は暫く特殊個体と戦うことは出来ないということだ。


つまりはそういうことだ。


「特殊個体はスキルだったり装備を落とす確率が高い。逃す理由が無いんだよ」

「だからと言って・・・!」

「まぁついでに肉も取ってくるから、そうカッカするなって」

「いやそんなことどうでもいいでしょ!」


随分と遠島が熱くなっている。何かあったか?

いや。そうなって当然か。

こいつの姉は、その特殊個体によって危険な目にあっているのだから。


しかしここで問答している時間は割とマズイ。

負傷しているとはいえ、特殊個体がここまで来ない可能性は無いとは言い切れない。


階段の方を確認する。

常駐チームは既に引いたようだ。


「日坂さんも何か言ってください。止めないと!」

「・・・戸村君」

「はい」

「約束。分かってるよね?」

「もちろん」

「じゃあ行って良し!!」

「えぇ!!??」

「行ってきまーす!!」


俺分の荷物だけ持って一気に階段へ向かう。

背後で遠島の声が聞こえるけどあいつじゃ俺の足に追いつけない。

後はきっと日坂さんがしっかりとあいつらを引率してくれるはずだ。


というかそうじゃないとちょっとマズイ。

俺だけならともかく、あいつら守りながらは多分無理だからな。


十九層を通り過ぎる。

少し離れた所に戦いの跡が残っている。

それから見るに、どうも相手は広範囲への攻撃を可能とするタイプらしい。

足跡を見ると大体の容貌が分かるが・・・これはちょっと経験の無いタイプの相手だな。


二十層に入った時点で、明らかに空気が違うことが感じとれる。

ここの階層ならもっと敵意を感じてもいいはずなのだがそれもない。

つまり、ここのモンスターはその特殊個体に狩りつくされた・・・は無いだろうから、そいつに怯えて隠れてるかな?


「んで?そこのところはどうなんだ・・・お馬ちゃん?」

「・・・」


明るいはずのダンジョンの空が、まるで夜の闇の様な暗さになっている。

その闇の中から、ゆっくりとそのモンスターが近づいてきた。


見た目はある一部を除けば普通の黒い馬だ。

サラブレッドの様に細い脚ではなく、太く頑丈な足だが。

問題はその足が八本あることだ。


輝く赤い瞳は特殊個体である証。

そして感じる威圧感。懐かしさすら感じる強者のそれ。

これは・・・大当たりだな。

それでもあの時の鬼程の差は感じない。なら勝てる相手だ。


赫爪を最初からそれなりの長さにしておく。

恐らくだが、俺より速い。なら間合いの差が重要になる。

一々伸ばすより予め伸ばしていた方が良いだろう。


「お前みたいな馬なら乗ってみたいけどなぁ!!」

「■■■■■!!!!」


ダンジョン中に響き渡るのではないかと思うほどの嘶き。

それと同時に突っ込む。


戦闘開始だ。

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― 新着の感想 ―
[一言] テイムできんか?
[一言] スレイプニルですか… 馬刺し!
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