第3話 リヴェリア
ウブなヤコブが触れられても大丈夫なクレアは一体何者なのか。
なんか、目的が少し変わってきたぞ? 最初は俺が追放された理由はクレアに違いない、だからクレアが俺に難癖付けた理由を探せ、だったのに。
とりあえず汗臭い俺達が使ってた部屋を片づけ、宿屋の受付の隣にある籠に各部屋のシーツをぶん投げてから、受付に声をかけた。
「ありがとよ。ほら、部屋は綺麗にしておいたぜ。後は俺が今日泊まる部屋のシーツを頼む」
「こちらこそ助かりました。いや~ 本当、人手が足りなくてね~ ところで、お客さん、お出かけで?」
「ああ。夕方には戻る。もしかしたら手紙とか言伝とかくるかもしれないから、よろしく頼む」
俺はそう一言を言い残し、クレアと初めて出会った場所である酒場へと向かった。
あいつとの出会いは、この街にきた初日の酒場だった。俺達パーティはまずは街に無事に辿り着けたことを祝うかのようにパーッと飲んで、次の日からの仕事に備えていた。その時、この街の舞踏集団がたまたま酒場の余興として舞踏披露を行っていた。クレアはその一団の一員だった。
あいつは俺らを品定めするように見てから、ヤコブに挨拶をした。その時、何を話していたかはわからないが、最終的にヤコブが俺に勝てたら考えてやる、とか言いだしたんだっけ。で、俺はクレアとの投擲勝負に負け、クレアがパーティに加わった、と……
だが、クレアにもかつて仲間がいた。ならクレアが何者かってのは、そのかつての仲間にクレアがどんな奴なのか聞くのが一番早いんじゃないか。で、そいつらが今どこにいるかは、やっぱり出会った場所で聞くべきだろう。
酒場はまだ昼間だというのに飲んだくれが数人、酒を浴びるように飲んでいた。俺は顔をしかめながらもマスターに声をかける。
「すまない、マスター。聞きたいことがあるんだが」
「あん? ああ、あんたは……ヤコブさんとこのスカウトさんか。どうしたんだ? 今日発つんじゃなかったか? あのパーティ、スカウトはあんただけだろ。置いていかれる理由がなくないか?」
「ところが、クレアで十分だからって、置いてかれたんだよ。酷い話だと思わねぇか?」
「クレアが、あんたの代わり……?」
マスターが不思議そうに首をかしげる。そうだよな。そうなるよな。戦いだけならともかく色んな雑務をこなせる俺を置いていく判断は傍から見てもおかしいよな?
「まあ、確かにクレアもスカウトの真似事みたいなことはできたが……リヴェリアの連中はなかなか戦闘能力が高いしな……完全な代用は無理でも戦闘能力が欲しいのならあり得るか……?」
ほう。あの舞踏集団、リヴェリアっていうのか。というか、なかなか戦闘能力高い? なんだそりゃ、舞踏集団だろ? ただの踊り子軍団じゃないのか? 踊り子が戦闘能力が高いなんて初めて聞いたぞ。この辺じゃ普通なのか?
俺は慌ててマスターに顔を寄せて聞く。
「おいマスター。リヴェリア、だっけ? そこの連中の戦闘能力が高いってどういうことだ?」
「ああ、そうか。よそ者は知らないか」
そこまで言うと、マスターは一度、店内を見回してから顔を近づけて俺に囁くように言う。
「リヴェリアはな、一応、この街で冒険者みたいなことしてる集団だ。とはいってもリーダーが他の街でいい感じの女を買い集めてるのを、ここの有力者に『自警兼目の保養』っていう名目で黙認してもらうための活動らしいが」
そりゃ大声では言えねぇわな……しっかし、腐ってんな……まあ、そういう目的のために手段を選ばない連中が集まらないと壊滅的な被害を受けたっていう街がたった十年で復興なんてしないか。
でもまた疑問が増えたぞ? そんな集団の中にいたクレアがあっさり俺らのパーティに入るって言って認めてもらえるのか?
「で、クレアはそこの有力者かなんかだったのか? あっさり出してもらえたってことはさ」
「そうでもないぞ。だがまあ、クレアとネレアは大分長いからな。あそこも大所帯になってきてたし、出たいっていうんなら出しても損なかったんだろ。それでも、ちょっと我は強いが素直で気の利く子だったからな。抜けるって話になって最近入った子が寂しがってたな」
は? クレアが、素直で気が利く? 俺らの所にきてからはワガママ言いたい放題だったぞ? もしかしてあいつ、猫被ってたのが嫌になったのか?
俺が首をかしげていると、マスターが少し笑ってメモを取り出し、地図を書き出した。
「ああ、ネレアってのはほら。お前らが最初きた時にクレアと一緒にいた子のことだよ。あの二人は大体セットで動いてたんだよ。そういや、最近ネレアのやつは見てないな」
ああ、そういやいたな。俺とクレアが投擲勝負して負けて、パーティに加わるって話になった時にめっちゃ怒ってた、金髪の褐色肌の女か。
「行方不明ってことか?」
「いや。あの子、爆発しただろ。あの一件で。ああいうことがあると恥ずかしいからか一週間は顔を出さないんだ。気にしなくても大丈夫だぞ。だけどまあ、一番詳しいのはあの子か。クレアのことが気になるんだったらほら、連中が拠点にしてる場所を教えてやるから、そこで聞いてみたらどうだ。多分、もうそろそろネレアも収まってるだろうしな」
爆発って妙な言い回しをするな、と思いながら俺はマスターが書いている地図を見る。この酒場は街の出入口に近い方にあるから……この拠点は海側。街の奥側の方にある形になるのか。地図を書き終えるとマスターは俺にその地図を手渡してくれた。
「おう、助かる。あ、そうだ。今日のディナーの目玉は何?」
「グリーンサラダと魚の切り身の炙り焼きだ」
「へぇ。じゃあ、もしネレア捕まえたら、夜寄ることにするわ。ありがとよ」
そう言って俺は酒場のマスターに礼を言ってから外へ出た。そして足早にマスターに教えてもらった連中の拠点とやらに向かって歩を進めた。体にまとわりついた酒の匂いは潮風が綺麗に洗い流してくれた。
それにしても、ここのマスターは出来ると思っていたが『出来すぎ』だな。こりゃ、リヴェリアと何か関係を持ってるな。まあ、話通りならリーヴェの自警にも携わってそうな連中だし、この街の復興初期からいたっていうマスターが親しくてもおかしくはないが……
そんなことを考えながらマスターの地図に従って歩いていると段々と人通りが少なくなっていく。本当にこんなところに拠点を置いているのか? いよいよ街の建物が途切れ、視界に海が広がり、切り立った崖にぽつんと建った二つの建物が見えたその時だった。
「きゃあああ!」
今さっき通り過ぎた路地裏から女の悲鳴が聞こえてきたのだ。




