8話
夜。自室のベッドに仰向けに倒れ込み、僕はスマホの画面を見つめていた。 画面には、先ほど結衣から送られてきたメッセージが表示されている。
『ねえねえ、来週末さ、隣町で季節外れの花火大会があるらしいよ!』
『私、今年まだ浴衣着てないんだー。だから、一緒に行きたいな♡』
可愛いウサギがワクワクしているスタンプが添えられている。
『うん、行こう。楽しみにしてるね』
僕は短く返信を打ち、スマホを胸の上に伏せた。
(……僕は、結衣にウソをついている)
彼女には、なんの非もない。無邪気で、優しくて、僕のことを真っ直ぐに見てくれている。
それなのに僕は、今日の放課後、掃除用具入れの中で、別の女の子と密着していた。あわやキスをしてしまうところだった。結衣が扉のすぐ外にいたというのに。
「最低だな、僕……」
自分への嫌悪感で息が詰まりそうになった、その時だった。
ブブッ。
スマホが短く震えた。結衣からの返信かと思い、慌てて画面を見る。だが、そこに表示されていたのは、見知らぬアカウントからのメッセージ通知だった。
『これ、蓮くんのアカウントでしょ?』
アイコンは初期設定のままだった。
『……誰?』
『私だよ。朝比奈怜奈』
血の気が引くのが分かった。
『……どこから僕のアカウント、手に入れたの?』
『クラスの連絡網のアカウントから』
淡々とした文字の羅列が、かえって彼女の息遣いを感じさせて生々しかった。返信に迷っていると、すぐに次のメッセージが届く。
『今日のこと』
『忘れないからね』
ドクン、と胸の奥が大きく鳴った。
忘れない。
それは、抱きしめたことかーー
それとも、直前でキスを拒んで逃げ出した僕への恨み言だろうかーー
(どうしよう……)
親友の好きな人。僕が手を出してはいけない人。早く「誤解だった」と分からせて、彼女を突き放さなければいけないのに。
僕は結衣が好きだ。結衣のことが大好きなはずなんだ。
『明日、ちゃんと話したい』
画面に浮かび上がったその一文が、僕の逃げ道を完全に塞いだ。これ以上放置すれば、彼女が涼介や結衣に何を言うか分からない。
いや、そんな打算的な理由じゃない。
本当は分かっている。朝比奈さんの「話したい」という気持ちを、僕自身が、どうしようもなく拒絶できなくなっていることに。
震える指で、画面をタップする。
『うん。わかった』
僕は、そう返すことしかできなかった。




