6話
きゅうくつな掃除用具入れの中。
モップの柄とバケツの隙間に体を押し込め、僕らは息を殺していた。
『あれー? 蓮、どこいったんだろうなー?』
薄い扉のすぐ向こう側から、結衣の足音が聞こえる。
もし結衣知られたら、すべてが終わる。
心臓の音が早まるのが自分でもわかるくらいだった。
そして、もっとマズいのが――。
「……っ」
僕の腕の中に、朝比奈さんがすっぽりと収まっていることだ。
暗闇の中でも、彼女の甘い香りと呼吸音がすぐ耳元から聞こえてくる。
(最初は、涼介の言っていることが夢物語みたいに思えたのにな……)
朝比奈さんは、学年でも目立つ存在だ。
こんな美人の幼馴染がいる涼介を、少しうらやましいと思っていた。よく告白しようと思うよな……まあ、涼介みたいなイケメンならお似合いか、と。
僕なら絶対にあきらめているだろうな。同じクラスになってから、たまに話すことはあっても、付き合うなんてとんでもない話だ。
――そんな朝比奈さんが今、こんなに僕のそばに密着している。
「……ねえ」
ふいに、暗闇の中で怜奈が囁いた。
吐息が首筋にかかって、背筋がゾクッとする。
「……なに?」
「近い」
「文句言うなよ、そっちが僕の腕を離さなかったんだろ」
「ねえ」
「……声出さないで、静かにしろよ。見つかるから」
僕は極力声を殺して答える。
結衣の足音は、まだ教室の中をウロウロしている。
「……見つかったら、マズいの?」
「えっ?」
「私と一緒にいるのが見つかったら、なにかあるの?」
朝比奈さんの声は、暗闇の中でもハッキリと、からかうような、試すような響きを持っていた。
「それは、そっちが……涼介が……」
「ねえ」
言葉を遮るように、朝比奈さんが体をすり寄せてきた。
「なんだよ……っ」
ギュッと、彼女の細い腕が僕の背中に回される。
抱きつかれた。
「蓮くん、あったかい」
「ダ、ダメだって……っ」
理性がショートしそうになる。
暗闇に目が慣れてきて、彼女の顔がぼんやりと見えた。
ほんの数センチの距離。
朝比奈さんは、上目遣いでじっと僕を見上げていた。
そして――ゆっくりと目を閉じ、少しだけ唇を尖らせる。
キスを待つ顔だ。
『おかしいな……カバンはあるのに……』
すぐ外で、結衣の呟きが聞こえる。
扉一枚隔てた向こうには彼女がいるのに。
目の前には、目を閉じたまま僕を待つ、綺麗な顔がある。
僕はーー




