2話
さかのぼること――30分前。
「だから、どうしても頼むって!」
「だから、どうしたって無理だって言ってるだろ!」
放課後の教室。
夕日が長く差し込む中で、親友の成瀬涼介が僕に頭を下げていた。
「そこをなんとか!こんなこと頼めるの、お前しかいないんだよ……!」
「だからって……なんで僕が朝比奈さんに告白しに行かなきゃいけないんだよ」
思わず持っていた黒板消しを机に置く。
朝比奈怜奈さんに、涼介の気持ちを伝えるなんて気が引けすぎる。
大体、同じクラスとはいえ、僕と彼女はほとんど話したことすらないんだぞ。
「というかお前、さっきからまた一人で教室に残って何してたんだよ?」
きょろきょろと誰もいない教室を見渡す涼介に、僕は小さくため息をついた。
「……今日の掃除当番、僕以外全員サボって帰った」
「だからってお前、一人で全部掃除してたのかよ!?」
「誰かがやらないと先生に怒られるだろ。……そんなところで突っ立ってるなら、ちょっとは手伝えよ」
「いやいや、それは……あっ!ほら蓮、見ろって!怜奈、帰るところだ」
涼介が急に僕の肩を掴み、廊下を指差した。
教室の前を、朝比奈怜奈がちょうど通り過ぎようとしていた。すらりとした背筋に、夕日を浴びて透き通るような綺麗な髪。
「うわ、本当だ……」
「頼む蓮!……行ってきてくれ!」
「自分で行けって」
「俺、これから部活あるから……」
「はああ……っ」
僕は深いため息を吐き出した。
ここで断ったら、涼介は明日も明後日も泣きついてくるに決まっている。
「……わかったよ。話してくる」
「マジで!?持つべきものは親友だな!」
こんなことがなければ、朝比奈さんに自分から声をかけることなんて一生なかっただろう。
僕は教室を飛び出し、足早に歩く彼女の背中に声をかけた。
「朝比奈さん!」
ピタリ、と足音が止まる。
振り返った彼女は、少し驚いたように丸い目をパチクリとさせた。
「……私?」
「うん。あのさ……ちょっと話があるんだけど」
「なに?」
人通りのある廊下で話すわけにもいかず、僕は彼女を促して階段を上った。
たどり着いたのは、夕暮れの屋上。
茜色の空の下、フェンスを背にした朝比奈さんは、にこやかな顔で僕を見ていた。
何を言われるのか、楽しみに待っているかのような表情。
その綺麗な笑顔を前にして、僕は喉の奥がカラカラになって、なんて切り出していいか分からなくなっていた。
頭の中に、教室で手を合わせていた親友・涼介の顔が浮かぶ。
(あいつのために、ちゃんと伝えてやらなきゃ……)
中略
そして――告白は成功した。
涼介の代わりに伝えたはずが、僕からの告白だと勘違いされたまま。
しかも、キスまでされてしまうなんて…….。
でも。
僕がここまで困惑しているのには、もっと別の、決定的な理由があった。
親友の代わりに告白してしまった気まずさなんかよりも、もっとずっと重要なこと。
――僕には、彼女がいるんだ。




