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第九話「どこにいるかのこと」
側面に、しばらくいた。
慣れてきた。
上と下が同時に見えることに、慣れてきた。
どちらでもある感覚に、慣れてきた。
ある夜、男と女は側面に並んで座った。
上面が見えた。
下面が見えた。
星が出ていた。
「不思議ですね」と男は言った。
「何が」と女は言った。
「星は、一つしかないのに、どちらからも見えます」と男は言った。
「そうですね」と女は言った。「上面からも、下面からも、側面からも、同じ星が見えます」
「星は、どこにいるんでしょう」
「どこにもいます」と女は言った。「あるいは、どこにもいません。ただ、光っているだけで」
男は星を見た。
上面にいた時も、この星を見ていた。
「どこへ行きますか」と男は言った。「最後は」
「最後?」と女は言った。
「上面へ戻るか、下面へ行くか、側面にいるか」
「決めていません」と女は言った。
「決めなくていいですか」
「決めなくていいと思っています」と女は言った。「どこにいても、星は同じですから」
男はその言葉を聞いた。
どこにいても、星は同じ。
「では」と男は言った。「あなたのいる場所に、いてもいいですか」
女は少しの間、男を見た。
「いてください」と言った。
星が、光っていた。
上面と下面の間で、光っていた。
(第九話 了)




