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第六話「下面で暮らした」
しばらく、下面にいた。
何日経ったか、分からなかった。
上面と、時間の流れが同じかどうかも、分からなかった。
下面の人たちは、親切だった。
場所を貸してくれた。
食べ物を分けてくれた。
下面のことを教えてくれた。
下面には、端があった。
上面と同じように、端があった。
端には、柵があった。
柵の向こうに、側面があった。
側面の向こうに、上面があった。
二人で、下面の端まで歩いた。
柵の向こうを見た。
上面が見えた。
逆さまに見えた。
「あそこから来たんですね」と女は言った。
「そうです」と男は言った。「遠く見えます」
「遠いですね」と女は言った。「でも、同じ距離です。来た時と」
「同じ距離でも、遠く感じます」と男は言った。
「逆さまだから」と女は言った。「逆さまに見えるものは、遠く感じます」
男は上面を見た。
自分が生まれた場所が、逆さまに見えた。
遠かった。
しかし、確かにそこにあった。
「戻りますか」と男は言った。
「まだ」と女は言った。「もう少し、ここにいたい」
「何を見たいんですか」
「全部」と女は言った。「下面の全部を」
(第六話 了)




