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第五話「下面に着いた」
下面に着いた。
重力が、また変わった。
下面の内側へ、引っ張られた。
足が、下面に吸いつくように立った。
上面が、頭の遠く上に見えた。
逆さまだった。
上面が、逆さまに見えた。
「逆さまです」と男は言った。
「逆さまです」と女は言った。「でも、ここではこれが普通です」
下面には、人がいた。
建物があった。
木があった。
川があった。
全部、上面と似ていた。
しかし、何かが違った。
光の向きが違った。
影の向きが違った。
人たちが、こちらを見た。
珍しそうに見た。
しかし、怖がらなかった。
「上面から来たんですか」と一人が言った。
「そうです」と男は言った。
「久しぶりです」とその人は言った。「上面から来た人が」
「久しぶりということは、来たことがある人がいるんですか」
「たまに来ます」とその人は言った。「来て、しばらくいて、戻る人もいます。戻らない人もいます」
男と女は、顔を見合わせた。
「しばらく、いてもいいですか」と女は言った。
「どうぞ」とその人は言った。
下面に、二人はいた。
頭の上に、上面があった。
逆さまの空の中に、上面があった。
男は、上面を見上げた。
遠かった。
しかし、見えた。
(第五話 了)




