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交渉のテーブルは荒れる

 朝食を兼ねてユクドールの王は会おうと言った。気持ちの良い木陰にテーブルは用意されていた。


「お加減はいかがか?」


 オレの嫌味に動じず、元気そうな狸親父……じゃなかった。ユクドール王はニッと笑う。


「持たせてしまって申し訳なかったな。だが、この国で滞在するのも悪くなかろう?」


「もてなしはありがたいが、早く帰りたい。国が心配で……」


 お茶とパン、サラダ、果物などを給仕係が並べだす。


「心配?そうでもないだろう?優秀な人材がエイルシア国にはいるだろう?」


 オレの脳裏に事なかれ宰相、ひねくれ将軍の顔が思い浮かぶ。思わず首を傾げた。


「今回の戦は見事な策だった。考えたのは……ウィルバート……エイルシア王ではあるまい?幼少の頃から知っているが、あのような回りくどいやり方はしないだろう」


「どうかな?オレも大人になってきているから、多少は小狡い手を使わせてもらう」


「もったいぶるな。調べてある。なにせ石化の城の術を解いてもらわねばならない」


 ………やはりそうきたか。


「それで?」


「あのような術を使えるもの……それは高名なる術者だろう?と、当初はそう思ったが、あの策を立てたのは……まさか王妃だったとはな。とんでもない悪女だな」


 やっぱりリアン狙いか。騎士たちにもバレていたから、少し調べればわかることだった。リアン、悪女呼ばわりされてるぞ。


「王妃……?なんのことだろうか?」


 とりあえず無駄だろうけどとぼけてみた。ユクドール王は苦笑する。


「白々しい演技は良い。捕虜たちを助けるために術者である王妃には悪いが、少し手荒な目に合わせるかもしれない。どうする?」


「………それは!!………と、オレが動揺すると思ったのか?時間稼ぎしていた割にそんな手しか打てなかったとか、大国ユクドールに失望だな」


 オレはそう言って、ゆったりと皿の上の甘くて瑞々しいフルーツを食べた。


「ユクドール王、甘くみないでもらいたいな。悪女と呼んだからには、ただの王妃ではないと思うべきだ」


「なに?」


 予想外のオレの冷静さに逆に動揺するユクドール王。


「さっさと賠償金を払い、不可侵の約束をしてほしい。待てない。明日から石の城の石像を1日ごとに破壊していく」


「………脅すつもりか?」


「オレにしたことをそのまま返しただけだ。明日からと時間に余裕をあげた事に感謝してくれ。なんなら、すべて破壊しても良いんだぞ」


 時間に余裕を与える。それがこの王にとって良いことになるとは思えないけどなと内心思う。


「大口叩いているが!再び戦になれば負けるのはそっちだろう!小国が偉そうに!」


 ユクドール王は短気だなとオレは冷笑を浮かべる。


「いいや。次も必ず勝つ。獅子王の名にかけて、どんな手を使おうとな。困るのはユクドール王国だろう?四方の国に戦を仕掛けまくり、この国の戦費、大変なことになってると聞いているが?そこまでして領土拡大を目指すのはなぜだ?」


「いちいち調べているのか?」


「交渉する相手のことを知るのは基本だからな。さて、オレも気が長いほうじゃないし、万が一王妃に何かあれば許さない。そのときはあの捕虜のいる城ごと吹っ飛ばす」


 明るい朝の清々しい空気感はここにはない。あるのは殺意と敵意。それでもユクドール王は笑った。睨んでるオレとは違う歳を重ねた者の余裕だろうか?それとも大国ゆえの油断?


「さて?どうなるか?ウィルバートは確か1人しか王妃を娶らないと聞いた。その王妃は今、どう過ごしているかな」


 席を立ったオレに追い打ちをかけるようにそう言う狸親父。


「……怠惰に過ごしてるさ」


 そうオレは言い残して去っていく。


「リアン様は大丈夫でしょうか?」


 セオドアがそうオレの後ろから言う。


「城の修繕費、絶対にユクドール王国に請求するからな」


「は?」


「リアンは狙われることを読んでいた。だからオレが護衛を置くことを了承した。術を作成した師匠のところにはフルトンを護衛につかせている。遅かれ早かれ……あのような策を立てた者に恨みが向かうことはわかっていた」


「陛下……トラスをリアン様につけたのは嫌がらせじゃなかったんですね」


「セオドアとエリックはこっちに欠かせない。フルトンとリアンだと暴走しそうだ。トラスが一番真面目で冷静でリアンの口にはのらなさそうだからな」


「そこは間違いないですね……それで、エリックは?どこ行ってるのですか?来てからというもの……姿がまったく見えず、まだ戻ってこないんですが?」


「そろそろ帰ってくる」


 オレは楽しげにそして残酷に笑う。


「アリが象を倒す。あの調子ではユクドールの王は……そんなこと思いもよらないだろうな」


 リアン、信頼してるからな。ここへ来る前に、大丈夫かと問うと『できる』そう彼女は断言した。その言葉を信じるぞ。


 そしてオレの手足となって動く三騎士達はけっして弱くない。キング……王の駒はなんて歯がゆいんだろう。周りの駒は倒れるまで戦うというのに……。

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