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過激な夜の読書

 夜、図書室で本を借りる。トラスが難しい本を手にする私に目を丸くしている。


「経済、兵法、建築、政治、地理……かなり幅広く読むのですね。これ全部理解されているのですか?」


「え?そうよ。どれも面白いわよ」


 面白さがわかりませんとトラスは首を傾げる。クロードがククッと楽しそうに笑う。


「変わった王妃様だとつくづく思うねぇ。さあさあ。そろそろ図書室を閉める時間だよ」

 

「あら……もうそんな時間なのね。長居してごめんなさい」


 つい夢中になってしまった。部屋に持ち帰る本をトラスが持ってくれる。クロードが手を振る。


 夜風が窓から入ってくる。今日は雨が降っているからシトシトとした木々に雨粒が当たる音と水を含んだ匂いが外からする。


「リアン様は勉強家ですね。陛下がなぜ戦の経験のないリアン様の策を起用したのかと最初は思いましたが、その理由、だんだんわかってきました」


「何かしら?」


「物事を多角的に見ることができる広い視野、自分すら策の中の駒に入れて犠牲にしてまで勝とうとする精神力……そして………」


 トラスが言葉を止めた。私も足を止めた。雨の音に混じるものに気づいた。その瞬間だった。


「リアン様!下がってください!」


 バッと私は言葉通り、後ろへ素早く体を下げる。ザッと天井から落ちてきたのは人だった。私の前にトラスが出て、守ってくれる。


 相手は黒ずくめで、目だけがギラギラとして出ている。トラスが素早く剣を抜いて、銀の刃を閃かせた。  


 短剣で受け止めようとしたが、トラスの一撃は見事だった。そんな小さな剣では相手にならなかった。弾き飛ばされて、同時に踏み込んだところから蹴り上げた。相手は身軽で避けたがトラスは剣だけでなく体術もできるらしく、さらに相手の懐に入り、拳を放つ。


 グアっとくぐもった声と共に相手は床に倒れる。そこへ警備兵達が囲んだ。


 強い。相手は訓練された暗殺者であろうことは間違いないのに、トラスはそれをはるかに上回る実力だった。息1つ乱すことなく終えている。


 私が感心した瞬間だった。警備兵が叫ぶ。


「もう一人来たぞ!」


 トラスが素早くその声に反応し、動く。……が、相手は手の中に炎を生み出した。


「魔法を使うぞ!」


「下がれ!」


 放たれようとした瞬間、私は言う。


「トラス!横に跳びなさい!避けて!」


 ドンッ!という爆音と共に、炎と暗殺者が一度に眼の前から消え失せた。


 巨大な水柱が相手を襲った。城の壁が水圧によって突き破り、ざあああああっと外の雨よりも激しい水が外ヘ流れ出る。


「なんだっ!これは!?」


「城が壊れた!?水が!?」


「い、いや!こうしている場合ではないっ!不審者を捕らえろー!」


「下に落ちていったぞーっ!」


 慌てる周囲は一階の外まで水圧で吹っ飛ばされた暗殺者を探しに行く。


 アナベルが額に手を当てる。


「久しぶりに見ました。また派手にやりましたね……お嬢様、加減してください」


 私は肩をすくめる。魔法を出した手をグーパーグーパーしてみる。久しぶりだけど、鈍ってないようね。


「リアン様、かなり……はりきって魔法を使われましたね」


 トラスまでそう言う。私は周囲を見回してニヤリと笑った。


「良いのよ。これで他の暗殺者もいなくなったでしょ?逃げていったでしょう」


 ああ……なるほどとトラスは察した。


「エイルシアの王妃は類稀なる魔力の持ち主で過激な危険人物という認識を与えたのですね」


「危険人物って………あの……トラス、もう少し言い方あると思うのよ?」


 撃退したのに褒められてない気がした。まだ水の勢いは止まらず、ザザザーと流れる大量の水の音がする。


「こんな城を破壊してしまって、陛下がなんというか……」


 アナベルが困った顔をした。私はそれは大丈夫よと安心させる。


「私または師匠が狙われるであろうことは想定していたの。私の場合『命の最優先をし、どんな手を使ってもかまわない』とウィルバートから許しを得てるの。ちゃんと城の修繕費も財政の予算にいれてあるわよ」


「陛下とお嬢様は………似たもの夫婦です!なんでお嬢様が城を破壊する前提で国家予算を組んでるんですかーっ!?」


 トラスも真面目な顔で騒ぎになってますよと穴が空いた壁から城の暗い下の方を覗き、『滝だー!』『お、おいっ!大丈夫かー!?』『池になってるぞー!』などワーワーと騒ぐ声がする方を指さした。


 静かな雨の夜は途端に賑やかになった。フッと私は明後日の方向を向いて、騒ぎは現実逃避することにした。


 こっちは撃退したわよ。ウィルバートの方は大丈夫よね?うまくいってるわよね?と私は遠く離れてる彼を信頼するしかなかった。

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