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彼女は怠惰な時を過ごす

 師匠は滅多にその町からその家から出ようとしない。また国政に関われば、出世間違いなしの才能と頭脳と魔力を持っている。それに匹敵する。またはそれ以上と褒められて調子にのっていたのが私だった。


「あの先生から手紙ですか?」


 アナベルが私のなんとも言えない顔を見て、そう尋ねてきた。


「そうよ。先日のお礼に貴重な本を贈ったお礼と……忠告?訓示?なにかしら?これ」


『先日のお礼の本は気に入った。夜の読書は室内でするように』


「夜風にあたると風邪をひくってことでしょうか?」


「そんな簡単な解釈を師匠はくれるかしら?」


 アナベルと私はしばらく無言になって考えた。


「………無理」


「あら?お嬢様、諦めるなんて珍しいですね?」


「今、怠惰モードなのよ。脳からして怠惰になってるの」


 なるほどと笑って、アナベルは最近、私が気に入ってるアンズジャム、いちごジャム、ブルーベリージャム、マーマレード、りんごジャム、ももジャム、レモンジャムを並べて、クラッカーのお皿も用意してくれる。


「うわぁ……どうしたの?これ?すごいジャムの種類!」


「お嬢様が陛下のお帰りを心配なさってますから、たまに気分が晴れるようにと……」


「べ、別に平気よっ!まだ離れて、そんな日数は経ってないわ」


 アナベルがそうですねと笑いながらお茶を淹れてくれる。なにげに私がウィルバートの帰りを待っていて、気にかけていることにアナベルは気づいていて、元気づけるために、私の好きなお茶菓子を用意してくれていた。


 仕事があれば気が紛れるのに、トラスが宰相に強く言ったせいで、本当に必要と思える最小限のものしか回ってこなくなった。


 暇だから、ゴロゴロと怠惰にすごしてるけど………ハッとして、天井を見上げる。


「お嬢様、いきなり上を見上げてどうしたんです?天井になにか虫でもいます?」


 アナベルが尋ねてくる。


「ううん。暇すぎて天井のマス目数えてるの」


 四角いマス目が並んでいるのだが、それをボーッと私は見ていた。


「マス目!?お、お嬢様!?本当に大丈夫ですか!?………ウィルバート様、早くお帰りになると良いですね」


 アナベルはボーッと空中を見ている私に困惑している。ウィルバートがいないせいでおかしいと思ったらしい。


 甘いジャムをのせて、お茶と一緒に食べ、『おいしー』とニッコリ笑う私は怠惰のプロ!


 ……でも確かにウィルバートがいる時の怠惰といない時の怠惰で過ごす気持ちがまったく違うわ。


 ふぅ……と私はため息を吐いた。


 天井をじっと睨むように私はもう一度、見た。アナベルには気づかれないよう、表情には出さないように気をつける。


 そこに何かが潜むように。

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