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いつでも真面目ちゃん! ~VRMMOでハジケようとしたけど、結局マジメに強くなり過ぎました~(前編)  作者: 亜空間会話(以下略)
8章 百剣抄

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359 いといとめぐり、編み上げて

(2026/7/6 ちょっと追加)


 どうぞ。

 あのシーンを生身で再現しよう、という無理難題を叶えるための課題は、やっぱり多かった。サーカス団にいたというアレーナ先生にも相談して、できるだけ近付けようとは思っているけど――


「鎌を持ったままロイター板で跳んで平均台に乗る、は無理。小道具(プロップ)の重さが木刀くらいでも、練習でそれをやるだけでリスクが大きすぎるの」

「はい。なんていうか……もう全然跳べる感じしないですね」


 どこに伝手があったのか、六尺棒という長い棒を借りてきてもらって、練習に使っていた。先に重りを付けて重量の偏りを同じくらいにして、それでもちょっと違うからと試作品をこっちに送ってもらう予定になっている。棒を振り回しながら平均台の上で暴れ回るのは、足場が二本あればそんなに問題なさそうだったけど……問題なのは、シーンの始まりからやることだった。


 ――主人公たちと敵対する葬花少女(ルブルーム)「アルカネイア・ウィティス」ことディエラは、そのふざけた戦闘スタイルで立体的な戦闘を展開し、さんざんに主人公たちを蹂躙してきた。たった一人彼女を追いかけ、ビルの隙間に張り巡らされた崩れた階段の上でとうとう彼女を発見した朧焔は、ヴァーモンを作戦地点に誘引する特殊フェロモン「イドロミン」のスーツケースを奪っていった彼女の真意を問い詰める――


「演出は、たぶんここから。どこかから飛び乗ってくるこの場面、これはやりたいはず。ステージの形からしても、ここ……この奈落から上がってきて、こう配置した足場に飛び乗る形になる、たぶん」

「ですね。でも、ここだとほんとに……どうやって大鎌持っていくんでしょうか」


 事前に大鎌だけが落ちてくるか、客席から投げ渡してもらうか――なんて思ったけど、ものすごく軽量の材質を使っているとはいえ、ちゃんと固くて火花が出る加工もされているらしい。こっちの危険もかなりあるから、課題はかなり大きい。演出家さんとも打ち合わせをしたいところだけど、こっちで出せる案は出しておきたかった。


「ぶら下がりはだいじょうぶ?」

「はい、そこは問題ないです。復帰も特に支障なしで」

「現役時代にこれなら、けっこう良かったと思うんだけど……」

「あはは……。ゲームから逆輸入しちゃった感じなので。気負いがないのもいいのかも」


 足でがっちりホールドすれば落ちないし、上半身と腕の力でちゃんと復帰できる。海野コーチが言っている通り、やっぱり新体操は「心技体体体」……筋力は偉大だ。にごフェス前後やデートでちょこちょこカロリーは摂りすぎてしまっているけど、ふだんのトレーニングのおかげで、選手時代に近付きつつある。


「大鎌は扱いだけ訓練して、あとは演出家さんとも相談しよう。衣装は大丈夫そう?」

「ちょっとスカートが長いくらいでしょうか……そんなに問題にならないと思います」

「採寸とデザイン案からして、動きやすさはいい感じだろうし……。ほんと、日本人は何でも作れるヘンタイだね」

「ふふ、そう言われて喜ぶと思いますよー」


 演出家の人が到着するまで、私たちは練習を続けた。




 それからしばらく経つと、美術の教科書で見たような、確かダリという芸術家みたいな人がやってきた。抽象絵画のシャツと革のジャケット、蛇柄のパンツに赤と紫のメッシュを入れた髪という、ものすごいビジュアルのダンディだ。


「おお! こんなに動けるとは……いいねぇ! いい!」

「いいでしょう、うちの子」

「いや本当に素晴らしい、演技はかなり弱いが、足りないのは声量とパッションくらいだな。あ、私は野炊愼一郎、舞台版の演出をやらせてもらっている者だ」

「揺城赫祢です、よろしくお願いします!」

「私はアレーナ・シャロム。スポーツクラブの雇われコーチ」

「うん、よろしく。あ、さっそく。衣装と大鎌の試作品を持ってきてあるから、軽く使ってみてくれ。壊れてもいい、どこに力がかかるかの計算も兼ねての試作品だから」


 更衣室に行って、インナーになる黒いレオタードと黒いガーターベルトを身に着けた。ニーハイソックスを履き上げて留め、偽乳をちゃんと詰めて安定させ、巻きスカートをレオタードに空けてある穴にしっかり止めた。髪の毛をまとめてもらいつつ、かんざし風のバレッタできれいに留める。


 姿見に映した自分は、ちゃんとディエラさんそっくりに見えた。右目もちゃんと紫色で、自分の気持ちがはっきり分かる。付いてきてくれたスタイリストの人が、ちょっと驚いていた。


「あら? それってブルームアイ?」

「はい。えへへ……好きな人のこと考えてると、こうなっちゃうみたいで」

「素敵じゃない。昔からあったみたいなのよね、ブルームアイって」

「魔女狩りとかも、これで起きたんでしょうか」


 特定の感情が高まると目の色が変わる、なんか色素細胞の大きさが変わることでそういう現象が起こる仕組みらしい。アニメなんかにもある目が光る演出も、これが元になったのではと言われているそうだ。


「さ、行きましょう。大鎌はどう?」

「けっこう、思ってたより……バランス違いますね。また持ってみないと」


 さっき軽く持った感じでは、先端を重くした棒とはぜんぜん違った。ちゃんと振り回してみて、何ができるかをもっと模索しなければいけない。体育館の方に戻って、野炊さんたちの前に出る。


「よし。こちらのアレーナ先生から、大鎌を持ったままステージに上がるのは難しい、と伺ったんだが。恥ずかしながら、私は新体操というやつはあまり見たことがなくてね。実際どういう感じなのかね」

「じゃあちょっと、この衣装のまま……」

「やってみようか。用意する」

「ぜひ。よりドラスティックな演出が思いつくかもしれない」


 脇に置いてあったロイター板を移動してもらって、合図とともに走り出す。跳躍、跳ね返る感触、ぐっと溜めた一回転と着地。体幹も鍛えて、筋肉もしっかり戻ってきたからか、すごく安定した着地だった。


「おぉー! ってあっいけない、お客さん……」


 なんか声が聞こえたな、と思ったら……銀メダリストの宇野曖音選手、曖音ちゃんがいる。練習時間も日時もまちまちだし、いつこっちに戻ってきているかも知らないから、今日来るのはぜんぜん知らなかった。


「どこかで見た顔だね。彼女が烏野選手か」

「そう、うちのエース。新聞でもテレビでもネットニュースでも、毎度大人気」

「じゃあ、そう……不躾なお願いなんだが、彼女の演技もひと通り見せてもらえないかね。こちらにだけ合わせてもらうようでは、万全を引き出せん気がしてね」

「あららー。この人って野炊愼一郎さんじゃない? どういう関係でここに来てるの?」


 どんどんと話が大きく、雪だるま式に膨れ上がっていくのを感じながら……これもいいな、と思えていた。

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