360 今日とあの日が重なるように
唐突ですが、今日で最終話となります。
どうぞ。
「とゆーところまでが、お母さんから聞いたおはなしー。濃ゆいノロケだったよー」
「んもう、あえて聞こうなんて言い出すから」
ベッドで二人、並んで話す双子はとても楽しげだった。
「でもさー、あんなに大好きな理由、まだよくわかんなかった」
「それは私も。お父様がお母様を好きな理由も、なんだかぼんやりしてる」
「子供には分かんないのかなー。アンナお姉さんに聞く?」
「千恵さんの方がいいよ。また口説かれちゃうもの」
こんこんと扉をノックしたのは、父の代から家に仕えている使用人の亜矢子だった。
「お嬢様がた、習い事のお時間ですよ」
「「はーい」」
二人とも、すでに用意はできている。カバンを持って、二人は亜矢子に続く。
「ご主人様と奥方様に、結婚前のことをお聞きしているとか。ずいぶん込み入った事情だったように記憶していますが……」
「えーっとねー。お母さんがアニメの再現やろうとして頑張ってたとこくらいまで? 聞いたかな」
「お父様は、なんだか言いづらそうだったけど……ふふ。窓のお姉さんに聞いちゃった」
「そうでしたか」
亜矢子がまだ半人前だった頃、今の主の祖母に取り立てられた折のこと……窓やガラスに映るそれは、自分にとって恐怖の対象であったことを思い出す。この子供たちは、亜矢子を役立たずと吐き捨てた、空を超えた先のあの美女にも育てられているのだ。
「わたくしからも、知っていることをお話ししましょう。ご主人様にお仕えしている期間は、奥様よりも少しだけ長いですから」
祝福とすべきか、呪いとすべきか。すでにない恩人は「この家が“力”を握った」と表現するのだろう、と……亜矢子は、そう考えた。渡り廊下に出たとき、少しだけ強く風が吹く――牧塩の風はいつも、少しばかりの塩気を含んでいる。その塩気が、いつものように……あの光景を思い起こさせた。
(迷いも嫉妬も、波に洗われていくような。心の底から……嬉しかった)
あの日と同じような穏やかな太陽のもとで、亜矢子は中庭でお茶を飲む二人に、あの日の礼服を幻視した。習い事そっちのけで駆けていく二人にも、苛立ちや不満はみじんも感じられない。
腕時計を見た亜矢子は、あの日と同じことばを発した。
「お二人とも。もうお時間がありませんよ!」
以上を「前編」とし、完結扱いにします。今まで応援いただきまして、ありがとうございました。
ちょっと就活に連敗しすぎて精神がアカンのと、ほかに書きたい作品のパイロット版も作って反応を見たいし、PVも下がってて読者離れが明白なので。いろいろやりたい話があるにはあるんですが、ウケが悪いまま突っ走る余裕は今はないので、「後編」はおそらく出てこないでしょう。まあ、うん……読者の方々が何を求めているかについて、あんまりよく理解してなかったのがダメでしたね。設定集の方はちょこっとだけ更新しようかと思っています。
ではまた、何か新作を書いたときにでも。




