356 第七:「了州朋光・沈海拵え」(1)
サブタイは「りょうしゅうともみつ・しずみごしらえ」と読みます。
どうぞ。
その日のハイムノアは、どこか様子がおかしかった。露店街でタダ飯にありつこうとするうるさい声がなく、夜の店からそそくさと寝床に帰ろうとする影もなく、夕方から娼館周りの飯屋で大笑いする声がなかった。
「なんだい今日は、あの野郎がいないじゃないか」
「そういやぁ、そうだなあ。いったいどこで寝てやがんだ?」
「今日見ないっスよね。オキニの……ルピーノちゃんのとこで寝てんじゃあないっスか?」
「知らないけど。昨日、別のお客さんの予約入ってたし」
「ああ、ワシらが出るときのいびきなあ。たしかに聞こえなかったなあ」
「来てないですね。毎日来てるわけじゃないが、猪肉のシチューはいたく気に入ってる様子で……今日らあたり、来ると思ってました」
「あいさつはしないが、すれ違うなあ。今日は見てないが」
いくつの声をたどっても、その足跡は見つからない。
――ヅィーブルが、消えた。
(あんなに目立つ人を、昨日の夕方から誰も見てない……)
無収入のチンピラであり、冒険者ギルドでそこそこの仕事を請けるか、ちょっとした裏の仕事でまあまあの金額をもらい、それらすべてを娼館周りで使い込む。完全に破綻した生活だが、リズムだけで言えば安定はしていた。毎日の習慣のような朝帰りを目撃されたかと思うと、アパルトマンでガアゴウといびきをかいて昼過ぎか夕方まで寝た後、また色街で食事を摂ったかと思うと誰かを指名して一晩を明かす。
名前を覚えてもらえない「五番」ことセブロは、マフィアの親玉から「おかしな剣を持ったよそ者がいる、ヤサが割れたから殺してこい」と言伝を預かっていた。ヅィーブルが探していた「あの赤いの」なのかどうかは不明だが、どちらにせよ厄介者であることに変わりはない。
(五十万の仕事なのになあ。一週間くらい遊べますよっつったら、あっちから出てきそうな話なのに)
あの男に、ほかの居場所はない。地下から出る理由があるとすれば、街から出ようとする娼婦への贈り物に、防寒具でも買ってやろうと思い立ったときくらいだろうが……両親を吹雪で亡くしたというあの男は、地下からほとんど出たがらない。
一歩進むごとに、灯り石の間隔がだんだんと広がり、色の温かみも失われていく。家賃の安いアパルトマンの周りは、街の中央部や色街とは違って、灯り石の色を工夫したり、壊れたもののメンテナンスが行き届いたりといった配慮がない。ホコリまみれの汚らしい蜘蛛の巣が張った灯り石は、死にかけたダクテラスのように色褪せていた。
優れた戦士は、足音で人を知る。セブロがここ三年ほど履いている固い靴は、鋼材の階段を登っても、昔のようにガンゴンと音を立てたりはしない。薄くなった靴底に吸われた情けない音は、いつも「お? 五番かぁ?」と扉を開ける前からヅィーブルに指摘されていたものだが――
(中にいない? いや、……剣はある、な)
ジョブ〈斥候〉の感知系スキルは、常時発動型である。より多くのMPを消費することで、より精細な情報を得ることができるが、いるかいないか程度の情報なら何もしなくとも手に入る。
「ヅィーブルさーん、五十万の仕事っスよー」
扉をノックすると、外開きの扉がわずかに動いた。見れば、鍵にこじ開けた痕が残っている……こじ開けたというよりも、内側に何か奇妙なものをねじ込んで、鍵穴の中から強引に破壊したような。ゾワリと総毛立ったセブロは、ドアノブを握り込んで、ゆっくりと扉を開いた。隙間をじわじわと広げて、何かおかしなものが目に入らないかと、目を凝らした。そして、気付く。
乾いた血の匂いと、傷んだ肉の匂い。
すべてを感知するために、MPを半分まで消費し、高レベルの隠蔽や隠密も看破できるようにと感覚を研ぎ澄ます。しかし、下手人はすでにここにはいなかった。短い廊下とデリバリーサービスのごみが山ほど積もった机、簡素なベッドと――
「これはッ……」
ベッドの上には、指で押しつぶしたかのような、異常な圧力で変形した指輪たちが転がっていた。そのうちのひとつには、見覚えがあった……やや鈍い銀色、赤を流し込んだ琥珀をあしらった太めのリング。
意志の証が破壊されているということは、すなわち。
「お、組長に連絡しねぇと……!!」
キッチンの陰に、黒曜石を削り出したような剣が落ちていた。
どうやってもノワールとサスペンスになるハイムノア。そもそも聖剣バトル(仮)自体が聖杯戦争並みにルール無用でむちゃくちゃ、ルール教えてくれるかどうかすらまちまちなのがガチで終わってるんですよねー。まあジュリオかリルゥがなんとかしてくれるでしょ(適当)




