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いつでも真面目ちゃん! ~VRMMOでハジケようとしたけど、結局マジメに強くなり過ぎました~(前編)  作者: 亜空間会話(以下略)
8章 百剣抄

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355/360

355 好きに応えるのは難しい(ムリじゃないかな…)

 どうぞ。

「大盛況だったねー! これで新しい子入ってくるかな?」

「どうなんでしょうね。今回はあんまり、好感触だったけど……」

「子供が心配することじゃないぞー、ほれ手具の扱いが雑!」

「はーい!」


 星奈の言う通り、今回のお客さんの反応はそこそこ止まりだった。人はすごく多かったけど、まあまあで止まってしまっていて、次の人がどんどん入ってきそうな手ごたえはない。良くも悪くも例年通りというか、来るだろうけどふつうにチラシとか見た方だろうな、という感じがあった。


 よく聞く車の音がして、たぶん墨帖さんが来た。


「あれ、墨帖さん?」

「カレシじゃん。っていうか、最近来てなかったよね? なんで?」

「そうですよね。忙しかったんでしょうか?」

「いや、あの人いろいろ理由付けて来てるだけだし」


 何かの“理由”があるのは察しているけど、具体的に何かは分からない。ときどき、微妙に記憶が途切れているとき……ああいうとき、墨帖さんがそばにいるタイミングが多い気がしていた。あの何かが気になって来ているのかも、という感じはあった――それなら、あの人ではなくて、私たちが原因なのだろう。


(……“たち”?)


 音にならない声が、小さく小さく口から出た。これがいつもの慣例みたいになっていてもいいのかはちょっと分からないけど、墨帖さんが体育館の中を壁伝いに歩いてくる。


「一週間ぶりくらいですか。赫祢さん、お久しぶりです」

「うわ、下の名前で呼んでる!? 関係進んだ!?」

「ん。そういえば、私も下の名前で呼ぶべき? なんでしょうか」

「……りょ、領域展開してる……!」


 茶化すアルカと千紗をガン無視して、「与市さん」と呼んでみた。


「それでは、家にいるときと変わりませんね……。ああ、こちらにお願いできますか」

「え、はい」


 気遣って静かにしてくれていたコーチは「よっし三人娘、取り戻すよー!」と悲鳴を上げさせていた。分厚いマットから降りて、体育館の端っこに並んで座る。手に持っていたクリアファイルから、えらく仰々しいレジュメが出てきた。


「先日のデートで紹介させていただいた、僕らグループが出資しているフィギュアシリーズ『ユグドラシル・ネイションズ』ですが。例年通り、秋の展示イベントで、新発売のフィギュアに似せたキャンペーンガールを配置することになっています」

「あのときも言った気がするんですけど、あの……大丈夫なんですか? コネで連れてきたって言われませんか?」


 まあ言われるでしょうが、と墨帖さんはしかめっ面になった。


「しかし……先方の言い分がずいぶんな無茶でして、なかなか必要な人材を確保できていないんです。ポーズだけでなく、一連の動きを再現してほしいと」

「ヒーローショーみたいな感じですか?」

「厳密には違いますが、似たようなものですね。しかし、『YN』の映像作品はアニメですから、現実にやれと言われてできる人はそういません」

「拳法家さんとか、サーカスとかは……」


 自分で言っていても分かるくらい、無茶な言葉だった。というか、そんなことは私にだってできない。


「残念ながら、ほとんどの商品は大型武器を持っていますので、極限まで軽くしても……といったところですね。拳で戦うキャラクターも、そうですね、ギプスより大きなものを装着していると考えてください」

「ケガしそうですね」


 ただ、と端末を操作して、映像を再生し始める。


「新体操の種目に「平均台」という……あれですね? あの棒の上で演技をする種目があると思うのですが」

「んー、……ちょっと似てる、気はしますけど」


 大鎌を持ったドレスの少女が、飛んだり跳ねたりしながら槍を持ったチャイナ風少女の攻撃をかわし、激戦を繰り広げるというシーンだった。たった二本の足場の上で、すさまじい速度の攻防が繰り広げられていて、アニメなのに映画みたいで、すごくカッコいい。


「……え、あの。この衣装着てこれやるんですか?」

「可能な限り調節はします」

「いや、このぶら下がりからの復帰のとことか……」

「演出プランはいくつか考えてあります。それを込みでお願いしたい」


 こんな手間かけてるから儲からないんじゃないかな、とちょっとだけ思ってしまったけど、口には出さないことにした。


「声はピンマイクでどうにかしますし、セリフはその場で変えていただいても構いません。現場でのトラブルなら、アドリブで何とかするしかありませんので」

「こ、断れない流れ、なんですよね……」


「にごフェスで、あれだけ動けるところを見せてしまいましたからね。柔軟性と身体能力、パフォーマンスの豊かさ。あんなコスプレイヤーがいたなんて、と方々で話題になっています。配信の同時接続数も、倍近く増えていたはずですが……」

「逃げられないですねー……」


 もはやどうしようもないのを確信して、私はまた一日だけのお仕事を請けることになってしまった。またアレーナ先生に集中して教えてもらうことになるな、と考えつつ……私は、とりあえず平均台での練習に移った。

 いや、美少女が戦う系アニメの舞台化がそこそこ出てきてるんで、似た流れで「あのアニメの再現やろうぜ!(※やる人の負担は考えてない)」って言ってる上の人もいるだろうなーと思いまして……そして「あの人! あの人絶対できるから連れてきて!! 個人的に知り合い!? 勝ち確やんけ!!!」って言われる墨帖さん。まだ大学通ってるのに中間管理職として胃痛を感じ始める墨帖さん。私情を捨ててこなせるあたり、しっかり現代財閥の御曹司なんやなって……

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