354【記録用214】魔王幹部11討伐(7)
どうぞ。
エクリプスオルカを中心に、ブレイドシャークとダークウルフが合体した姿。紺色のレオタードに白と黒の手套、同じ色のサイハイソックスに包まれた体。肩と腕に鋭い装甲、足には細めのブーツ、そして耳のようなツノがついたバイザーが、ガシャンと降りて――左右に分かれた黒いマントが、ばさりと広がった。
月を背に腕を組んで、宣言した。
「冥月鋼騎、デスペアルド!」
『かっけええええ』『えっ条件満たしてなくない???』『やっぱ夜に映えるなあ』『バグか?』『カードか魔石三つ消費じゃないん?』『このアヌビス風味すこ』『昼間にきちんと静止画で確認したい……』『マジでどうやってんのこれ』
「驚いてるみたいだね、視聴者さんたち! でもこれ、からくりは簡単なんだよ。だって、最初からやってることだからね!」
ふつうのジョブと同じく、モンスタージョブにもランク分けはあって、下級ジョブからレベルアップして中級、上級へと上げていくことができる。けれど、レベルもランクも関係なく、【愚者】の【おもてさかさま情転図】は指定したモンスタージョブに直接変身できてしまう。
「私が最初に変身したのは、〈アステリス・ランドドラゴン〉……〈アステリス・グランリザード〉の次。条件が絶対に実現不可能なジョブは――変身枠の「輪廻の六つ車」にセットしたままだと、直接呼び出せちゃうんだよ!!」
最初の配信に使うために、と私は〈アステリス・グランリザード〉のカードを使ってコソ練した。けれど、そんな無理やりの短い変身時間で、より位が上の転職に必要な経験値を貯めきれるわけがない。そもそも、変身しただけのジョブは身についていないから、そこで入った経験値はぜんぶ他のジョブに取られる。その結果、何が起きるかというと……転職条件である「〈アステリス・グランリザード〉Lv.40以上」をスキップした、〈アステリス・ランドドラゴン〉への変身ができるようになる。
「誰としゃべっているのです!」
「あなたが言ってる、どことも知れない場所だよ?」
私が保存している変身枠「輪廻の六つ車」には、〈アステリス・ランドドラゴン〉と〈ネレイデス・ベアトリーチェ〉、それに〈デザストル・クロウ〉が残っている。だから、理論上はオルカ・シャーク・ウルフを残しておいても良かったけど――変身だと弱い〈イデアイドラ・ヴァイン〉を消しても、六つの枠には収まらない。そして、どれを消すか迷っているとき、なぜか〈冥月鋼騎デスペアルド〉が残っているのに気付いた。
そしてもうひとつ、絶対に欲しい候補があるから……変身枠は、もう使えなかった。
左右が鎖でつながった双剣は、あえてなのか、もうストックがないのか、消えない。打ち合いながら、火花のような言葉を聞いた。
「この王編十六章が……弱き世界の、人間ごときに!」
「ぶほほほほ……貴様もまた、弱さが産む爆発力を知っているのではないかのう! 強きを恐れ、弱きを恐れ! 貴様がたどれる道は、もはやどこにもなくなりつつあるど!」
『煽りが上手すぎるんよ』『演出無敵かコノヤロー』『正義の言いそうなことも悪の言いそうなこともコンプリートしてる……』『もともと特撮大好きっぽいからな』『あっまた鎧消されたァ!?』『もう裸やんけ!』『ひどい』
もとがサイボーグだから、インナーだけになってもあんまり弱そうな感じはしないけど……私がバニースーツも帽子もブーツも取られたみたいなものだ、と思うと、だいぶ絵面が危ない。
「ふふふ。希望がなくなっちゃったら、あとは絶望に変わるのに」
「バトンタッチ、ということになるかのう」
解の結界が消えて、夜が戻ってきた――けれど。もうひとつの仮面「潜靴堂裏」をとんと叩くと、レモン色の光がふわっと広がった。地上の星と花が、夜に浮かぶ月と暗黒の獣を照らして、押していく。
「何をやっても、む」
「ほんとかなー?」
どむんっ、と弾き上げたボールと、切り裂いた軌道。顔面に迫っていた飾剣を消されたそこに、再び蹴り上げた背中へと斬撃とボールを浴びせる。
「いま見えてる範囲で、いま警戒してるものを消すんでしょ? じゃあ……見えないところから攻撃して、消せないものをたくさん壁にしちゃえばいいんだ」
『サイコパス入ってきたな』『あっ(察し)』『鬼畜モードきちゃああああ』『これは勝ち確ですわ』『怖すぎィ!』『顔面狙いで忘却誘導すんの!?』『これ半グレとかがやるやつやろ』『しれっと拷問みたいなことするのマジヤバ』『コピーしたやつってオリジナル消えないのか』『あっそうか、カードは贋作だからいちおう存在してはいる?』
分身が敵を弾き上げ、ボールでさらに跳ね上げていく。杯を使って、さらに強化を重ねた。
「さあ。どれを消したら勝ちだと思う?」
十六人の分身と、本体がひとり。十七人の私が、地上から、空中から、ボールの陰から、光をつがえたアーチェリーを構えている。きりきりと引き絞った弦が、一撃でも戦いを終わらせかねないエネルギーを収束している。
「このッ、」
「〈天賜の階、其は〉――」
ソードアローが消えても、すぐにコピー品が現れる。オリジナルが消えていなければ、カード一枚でいくらでも量産できるからだ。
「〈万象浚う終焉なり〉」
「あぁああああああっっ……!!!」
雷鳴のような轟音が耳をつんざき、夜を砕いた。三日月が絶叫したかと思うと大爆発して、そら恐ろしくなるほど美しい星空が帰ってきた――
戦いが、終わった。
ちゃんと絶望っぽい技(天から下がってきた導きの階段は、すべてを死滅させる終末だった)で〆。次回は、ワルイダー壊滅パートでやった「デパートでのパフォーマンス」が終わった直後の話になるので、時系列がちょっと飛びます。そのあいだにジョブが増える。




