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いつでも真面目ちゃん! ~VRMMOでハジケようとしたけど、結局マジメに強くなり過ぎました~(前編)  作者: 亜空間会話(以下略)
8章 百剣抄

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348 第六:「偽剣」(1)

 どうぞ。

 地殻が安定したタウルヴァンス大陸では珍しく、震度六を超える大きな地震があったその日――少年は、森の中にいた。いつものように遊びに出かけ、家計の助けになるようにとキノコや燃えやすい朽ち木を拾いに行っていた。森の中にとつぜん突き立った崖には、古代の地層が露出していた。


 人の手が見えた。時代を推定する知識など、そのときの少年にはない。その隣に、すでに滅びたモンスターの化石が含まれていても……老人のように乾ききったしわしわの手は、死んだ人間のそれではなかった。


「ねえ、だいじょうぶ!? じいちゃん、ねえ!」

「うん、ああ。……すこし、寝ていただけだよ」


 ぐっと握った手の周りの土が、ぽろぽろと崩れる。そして、老人は土の中から現れた。古いローブに身を包んだ彼は、不思議な木剣を持っていた。


「じいちゃん、それ何なの?」

「これは、……勇者の証さ」


 土が、さらに砕けていく。なぜ、そんなことが起きているのか……少年がその真相に気付くのに、そう時間はかからなかった。


「あっあれ、さっきの骨だ!」

「隠れるんだ。子供を戦わせるわけにはいかない」

「でも、じいちゃんだぜ!? そんな細い体で……」

「言っただろう? 私は、勇者だと」


 大昔、雲の海を作り出し、空を泳ぐ「天龍」という生物がいたという。偽神の台頭により、住める環境が少なくなったことで、天龍はしぜんに滅びていった。地に堕ちても生きることができた「落竜」は、のちに深いダンジョンの奥で天龍の姿を取り戻したというが……時代はまだ、落竜の代にあった。


『おのれ、時を壊し地割れに閉じ込めても死なぬとは!! かくなる上は、この世界の時をかき乱し! 世界法則をすべて破壊し尽くしてくれる!!』

「力を持つだけの、子供というのは……厄介なものだ。命ひとつは、自分の分を弁えて生きなければ」


 空間がひび割れ、樹が伸びては朽ち、空が裂けては閉じる。この世がどうなったのかも分からぬその地獄のような光景を、少年は網状のキノコの中で見ていた。どれほど叫んでも、老人は少年を出してはくれなかった。骨になっていたはずの天龍はすでに肉体を取り戻し、神話に語られるその姿を輝かせている。対する老人は、古いローブ姿のまま、何ひとつ変わりはしない。


 負けてしまう、と何度も思った――けれど、老人は何種類ものキノコを生やし、菌糸や胞子を巧みに使って天龍を追い詰めていった。攻撃を防ぐだけでなく、胞子を食わせて呼吸器官を侵し、空にある絶対の存在を地に堕とした。


『この、我を……キノコごときにィ……! 幾千幾万の時を経ようと、必ずや報復を果たしてくれる!!』

「お前も、命だ。命の流れに還れ……奪う側ではない、与える側になるんだ」


 キノコで天龍を食らい尽くした老人は、空間破断や時間断裂、次元攪拌でめちゃくちゃになった森のことについて、村人たちに謝罪した。彼は、村人たちが次の村を開拓するまでの間、ずっとそばについて支え続け、モンスターを退け続けた。勇者としか名乗らなかった老人は、やがて寿命が近付いたのか、村人たちにこう言った。


「この剣は、持った人間を強制的に“勇者”に……人ではないものに作り替えてしまう。けれど、ほかの聖剣のように、誰とでも結びつくわけではない」


 老人の強さは、村の誰もが知るところだった。薪割りに使うナタで樹を伐り倒すことができ、巨竜をも一人で討つことができる。あれほどの力を持てば、と誰もが思った。


「私がそうだったように、これを岩に差しておく。剣を抜けたものが、次の勇者になる。これは力自慢でも、知恵自慢でもない。剣を握って動かなかったのなら、諦めなさい」


 男も女も、子供から老人まで、あらゆるものが挑戦した。しかし、剣を抜くことができたものは、その力を何よりも恐れていたあのときの少年――ジュリオだった。あのとき見た地獄に放り込まれる、あれほど恐ろしい存在に立ち向かう使命を託される、その恐ろしさは、ただの木こりの息子に耐えられるものではなかった。


 ただの剣としてそれを振るって一年ほど経ったときのこと、森に不審な人物が現れるという噂が立った。数十人で儀式を行うその集団は、ひとりずつ減っているという……何かが起きていることは明白だった。生贄の儀式が成ったそのとき、腕と手の化け物「掌握の偽神」が現れた。呼び出したものどもをゆっくりと引きちぎり、手のひらを足のように使って村に走り寄り、殺戮を楽しもうとした。


 ジュリオは、未だ恐れていた。



――おそらく。一度でもこのような戦いに身を投じれば、永遠に抜け出せなくなる。

――あの天龍のように、復讐を胸に死を超えてくるものもあるだろう。それはもはや必然だ。どうやっても避けられない。

――これを、誰かに託せたなら。



 ジュリオを小さく、小さく押し込めようとする思考の圧力は、しかし。


「助けて、ジュリオ兄ちゃんっ!! 俺の家が……! じいちゃん動けないんだよ!!」


 解き放たれた。


「ああ!!」


 心臓を掴み出す怪光線には苦戦したが、そのたびに菌糸で再構成した。弾き飛ばし、誘導し、村には何の被害も出さずに、ジュリオは偽神を討滅した。


 使命を帯びて村を出た勇者ジュリオは、そうして「神殺し」の名をほしいままにし、数十の偽神を討った。その概念が人の中に深く根付くほど、偽神は強い。人の世には欠かせない概念である「懐胎」の名を持つ偽神を前にしたそのとき、ジュリオは討滅を諦めた。むろん、偽神を外なる世界に返したところで、現実におけるその現象が途切れることはない。


 すべての力を使って、ジュリオは街ごと偽神を封印した。


 そこで、ジュリオの人生は終わった――はずだった。

Q:勇者ってどのくらい強いの?

A:本編の強豪が全滅するような怪物でもナレ死させられるレベル。なお、攻撃はともかく防御面はほぼ身体能力だけで戦っている模様


 本編に出てきた中でも無理そうなのは「黒山羊の母」くらいかな? と思うんですけど、あれはまあ……そもそも倒せるものじゃないし。というかなんで呼び出せたんだよアレ。

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