346【記録用214】魔王幹部11討伐(3)
どうぞ。
いくつもの丘が並ぶ花畑のなかで、一段低くなった池のほとりに、青と白が目立つ花嫁のような姿の女性がいた。顔は奇妙なエンブレムの染め抜かれたベールで隠されていて、露出した足や腕にはリボンが巻き付いている。
「見つかって、しまいましたね。あなたは、私を倒す自信が……あるのですね」
「あるよー。頑張らないと、えらいことになっちゃうし」
一か月もしないうちに、プレイヤーのスタート地点であるラビウム島より大きな面積が、ぜんぶ覆い隠されてしまっている。一人でこれだから、倒さないとどうしようもなくなる。海に出るまでは保たないみたいだけど、本気になられたらおしまいだ。
「好きなだけ、攻撃してきてください」
「おっけー、やるね」
カードを投げる。手をかざすまでもなく、たぷんと豊かな胸元にある花がその炎の勢いを強くして、飛んでいったカードをデッキごと消してしまった。
『いまのアップしてもらっていい?』『顔が見えない系女子ええな』『アイテムとかスキル消すってマジやったんやな』『無理だろこれ』『デッキごとはヤバい』『カード使い切ってからじゃないんだな』『これ誰が勝てるんだよw』『どうすんの……』
「ごめん、カメラ借り物だからおっぱいアップはちょっと」
ぱん、と手を打ち合わせると、次のカードデッキが現れた。
「数で争う気、ですか」
「うん」
武器オタクくらいしか知らないし、私は使い捨てしかしていなかったから、まったく考えていないけど――「カード」というカテゴリの武器は、ものすごく種類が多い。占いに使うカードやテーブルゲームとしてのカード、そしてなぜかあるカードゲームのものも、同じ分類になっている。ふつうのカードも、いくつかの会社や占い師がオリジナルデザインを作って出しているから、何種類かある。
けれど、カードゲームのデッキ……「構築済みデッキ」と言われていたこれも、異常なほど多い。ゲームの種類は四種類くらい、七十弾くらい出ている長期シリーズばかりで、それぞれに四つか五つくらいのデッキがあった。最低でも三百種類くらいのデッキがあって、【愚者】はそのすべてを呼び出せるし、それらに強弱はとくにない。
「カードぜんぶ消してもいいけど……消せるストック、百種類くらいなんじゃない? カードだけ消し終わっても、もっと強いの残ってるよ」
「自信の表れ、でしょうか。その宣言は、悪手でしたね……」
「そうかなー? いま刺さったカードって」
「……」
特技で投げると、特技を「忘却」させることにリソースを割いてしまって、カード自体を消すのは遅れるようだった。さっと迫って蹴りを入れると、寸前で防がれる。
「燃えて、いない……」
「ずーっと特技頼りでやってきたわけじゃないよ?」
敏捷はこっちの方が上、相手はギリギリでしか対応できていない。能力に特化しているはずなのに、それでもこれだけステータスが高いのは、とんでもなくすごいことだ。
「虚獣は、いくらでも湧き出てきます。人々が、世界が忘却したものの総量が大きければ大きいほど、いくらでも」
「溜め込むタイプかー。一度に出せる量は少ないみたいだけど……」
「神殺しを成し遂げるには、人には最小限で抑えるほかにありませんから……。しかし、すこしだけ……考えが変わりました」
キリキリキリ、とものすごく嫌な音を立てながら空間が裂けて、大きな剣がのぞいた。
「貴女の記憶から、忘れられないほど強く憎む……筋金入りの強者を、呼び出しました。もう一度、勝てますか」
『何こいつ』『にごフェスでガチで誰も知らなかったやつじゃんw』『ボスチャレのレア枠なのに時間耐性必須のクソボスやんけ』『↑ボスチャレなら時間耐性くらい持っとけ定期』『なんか怒ってない?』『ほんまや』『そもそも白バニーさんってゲームキャラに対して怒るか?』『こいつ関連のストーリーがひどかった説』
「ヒューイ、ラーゼ。殺るよー」
下半身が蛇になった、時計仕掛けの巨人。植物と融合して花や果実を実らせたそれは、思い出深いけどあんまり思い出したくない……デザインは好きなのに、どうしようもなく相容れない考えの敵だった。
「こっちで、戦う。どうせストック山ほどあるし」
『座長!?』『殺意ヤバいな今回』『こういうキレッキレの怒りが見たかった』『なんか新登場のやついない?』『植物系で植物系倒すん?』『棒術!』『衣装のえっちさが搔き消えるほどのガチ顔でちょっと……』『これはこれでええな』
「ロディリア・クロノルーツ。これをわざわざ出してきたってことはさー、覚悟できてるってことなんだよね?」
「もとより。魔王の命は絶対です」
「じゃあ。全力出すから――受け止めて?」
跳んだ。
「ルパート三世」(ルサカ開拓ルート:ヘルタ死亡IF)
『崩壊:スターレイル』のストーリーPV『【崩壊:スターレイル】 千の星を巡る紀行PV 「物語の外側:第8幕」』に登場した、バッドエンドIFのひとつ。本作に出てくる「ロディリア・クロノルーツ」の元ネタ。どういう姿なのかイメージしづらい人は、見てみると一発で分かるはず。その姿は、事情を知らない人にはそれなりに美しく、しかしプレイヤーにとっては「鬱くしい」ものになっている。
このPVは、「宇宙を終焉から遡った存在の指示を受け、宇宙の終焉を回避するため他者に最適ルートをたどらせる」という目的を持った集団「星核ハンター」の視点で描かれる。当時「オンパロス」という世界(≒惑星)を開拓(≒冒険)していた主人公たちが、ほかの世界を開拓していたらどうなっていたのか、というルートが描かれ、この「ルパート三世」は開始早々開拓者(≒視聴者、プレイヤー)たちを大いに戦慄させた。
雑に説明すると、オンパロスは「すべての機械を殺人兵器に塗り替えるウイルス」を作るための実験場であり、それが判明して阻止されたというのが本編の内容。しかし、もしも主人公たちがオンパロスに行かず、実験を止めることができなかった場合は……? というのが「ルサカ開拓ルート」の内容。本編開始時点から主人公たちを振り回し続けた天才「ヘルタ」がすでに手遅れ状態のオンパロスの存在に気付き、どうにか止めようとするが乗っ取られて全能力をNTR利用されることになる。低レアキャラとして愛嬌ある存在だった「ヘルタ人形」もすべてが殺人兵器と化し、数多く登場する天才の中ではかなり親しみやすい人かつCP人気も高かった彼女の死が明言されたことで、当時すでに限界が近かった開拓者たちのメンタルを粉みじんに粉砕した。
闇堕ち魔法少女っぽいとか尊厳破壊っぷりが美しいとかまどマギの魔女化っぽいとかで、ビジュアル人気自体はけっこうある……ものの、ヘルタには仲の良い友人がいたり、所属する「天才クラブ」の連中がまあまあヤバいやつばかりだったりと、「この人がいないと……」という想像が容易にできてしまうため、かなりメンタルにくる。「ルパート三世」だけで画像が出てくるうえ、本編にはいっさい登場しないので、ゲーム本編を遊んでいても目にすることはない。




