336 ハイムノアお土産まわり!
どうぞ。
けっこうグルメなホウイさんやディリードさんにお土産でも買っていこうかなと思って、ハイムノアの露店街を回ってみる。美味しいものはそんなにない、とみんなは言っているけど、不思議に甘酸っぱい匂いのお酒はけっこうおいしそうだった。
「これって何ですか?」
「木の皮を引っ掻いてね、染み出てくる汁と雪が混じったのをお酒にしたやつだよ。虫の甘露と果実で味付けして薄めてあるから、飲みやすいけど値段は上がってるね」
「じゃ、お土産にします。アイテムとして使えるやつとかは」
「味付けしてないやつかい? 酒精が強すぎるし、匂いも頭にくるからねえ。気つけだの着火剤だのにはいいと思うよ」
ちょっと常識外れというか、そもそも飲み物じゃない気がする。どういう肝臓をしていたらこれが飲めるのか、想像もできなかった。
「食べ物の方は……」
「寒麦はよそに売るほどないからね、お菓子売ってるとこに行くといいよ。よそから入ってくるやつはマフィアが握ってるから、よけい高いもの」
「そ、そうなんですね……」
「肉とか魚なら、すこしは安いよ。鉱山は燃料も取れてるから、肉焼くのが上手いやつならそこいらにゴロゴロいる。ま、ゲテモノばっかりだけどね」
この街の地上部分近くには、ものすごい規模の針葉樹林がある。冬の森にいそうなモンスターばかりか、と思ったらそんなこともなくて……いろいろと土地柄が複雑だから、地上と地下だとぜんぜん様子が変わってくるらしい。
そもそもここは火山地帯で、針葉樹林は溶岩が冷え固まった場所の上に土砂が流れ込んだ、というわりと複雑な土地らしかった。地熱もけっこうある方だから、「ダクテラス」という白いアブラムシが地下にたくさんいて、それを狩るクエストもびっくりするくらいたくさん出ている。
「前は虫狩りも多かったし、最近も大勢来てたろう? ありゃ本当に助かってるんだよ、ここの糖蜜はみんなダクテラスから獲ってるものだから」
ダクテラスを掘り起こして食べるのは、このあたりの捕食者のだいたいに共通する特徴らしい。ウサギが増えるのは、ダクテラスの方が狩りやすくて美味しくてカロリーがバカみたいに高いから、なのだそうだ。いつでも太ったイノシシやめちゃくちゃ大きなクマがいるのはそのせいで、狩った虫を何割か放っておけばそっちに向かう、というくらいには取るのが簡単で食べでがある得物のようだった。
「マフィアは力でなびくし、男どもは肉か酒だね。女はみんな糖蜜あげときゃいい、この街は誰しも糖蜜で生きてるからね。今日の夕飯やら来年の仕込みの分がタダになるんで、みんないい顔してくれるよ」
「覚えときます。ところで、この木の実みたいなのって……なんかいびつですけど」
「ああ、「傷ボコ」かい? 地下の草にもダクテラスはつくんだけど、何度も汁を吸われてると、そこから丸まって果物みたいになるのさ。あー、……なんて言ったっけ。旅人の学者先生が「虫こぶ」って言ってたよ」
「美味しいんですか? こういうの好きそうな人がいるんですけど」
「おやつにはちょうどいいよ。持ってきな」
ほんのり紫色に光る、何かを我慢する握りこぶしみたいなもの。洞窟なんかにある光る植物が、虫に刺されまくって変形してしまった結果らしい。想像するとちょっとゾワッとするけど、ゲーマーは「効果があるなら食べる」とか平気で言い出す人種だ。ホウイさんはちょっと分からないけど、ディリードさんは「味もいいなら問題ない」と間違いなく言う、そういう確信がある。
いろいろと買い込んで、ふらふらしているゾミアさんに合流した。
「ふう……。見た目で分かるものしか信頼できませんね。慌てて隠すような商品も売っているようですし」
「あはは……。思ったより、真っ当に暮らしてる人多いですよー。全体がマフィアの言いなりってほどじゃないみたいですし」
「それはそうでしょう。鉱山労働から逃げ出したものがマフィアをやってはいても、この街のインフラは結局鉱山に行きつきます。権利を握ったところで、搾取できるギリギリがある」
「そこらの子供がマフィア堕ちしちゃうのは、ちょっと悲しいですけどね……」
通商を掌握し、鉱山や森では護衛と称して異様に高い料金を要求しているから、けっこう悪い方だ。娯楽産業のほとんどはマフィアの手の内で、この街で動くお金のほとんどはマフィアに渡る……ボイコットやストが起きないギリギリを攻めてはいるし、プレイヤーがいる間は派手な行動が起こせないから、低い位置だけど安定はしているのだろう。
「うーん……」
「どうしたのですか」
「ダクテラスって虫があっちこっちに大量に隠れてて、倒すといろいろ嬉しいことがあるみたいなんですけど、私ってめっちゃ壊しちゃうので。諦めようかなって」
「お前はもっと強いものに立ち向かうべきです。虫けらを狩ってちまちま稼ごうなどと、志の低い」
ちょっと怒られてしまった。
「じゃあ、私はお土産届けに行くので。ここで失礼しますね!」
「ええ。思ったよりも有意義な時間でしたよ、フィエル」
「こちらこそ!」
お互いに手を振りながら、私はデュデットワにテレポートした。
「ダクテラス」
六等級
虫・百蟲
タウルヴァンス大陸に広く分布する、白い地下浅層性のアブラムシ。いわゆるネアブラムシと呼ばれる種類のもの(画像閲覧注意、冗談抜きでグロキモい。検索しない方がいいです)で、温度が比較的安定したところの、それなりに大きな植物にはなんでもくっつく。……のだが、そのような環境はハイムノア地上部分近くの針葉樹林くらいしかないため、ここを一大繁殖地としている。根元が荒れた木があるときは、そこで同族が食われて隣の木に移動しているサイン。動きがゲーム黎明期のようにもっさりしているうえ、防御力も脆弱なのでめちゃくちゃ倒しやすい。体液がベッタベタなので、斬撃で倒すと一定時間切れ味がひどく下がる。
どこを掘っても出てくる、洞窟でも出会う、雪虫っぽい虫の正体はコイツとどこに行っても出会えるので、ハイムノアを拠点にしているとこいつの素材が山ほど溜まる。燃やすと無駄にいい匂いがするため、単価は安いがどこでも買い取ってもらえるのが救い。屋台にある「脂身が多すぎる白っぽい肉」はコイツ、お菓子に入れる糖蜜を出しているのもコイツ、ハイムノアの甘味料は99.9999%コイツ。外にいるモンスターもコイツを食べて生きているので、コイツの糖蜜と脚を使えばわな猟も釣りも思いのまま。鉱山とともにハイムノアを支えるインフラと言える。
命名はモデルとなったネアブラムシの学名「ダクティラスファエラ」をもじったもの。本作の「この土地の生態系を支えているんだ!」という描写は、筆者の「死んでからでもいいからちったあ役に立てクソどもが!!!」という怒りを込めたもので、現実ではガチでどうしようもないクソ害虫である。糖蜜は取れないどころか木の表面がベッタベタになったり、果物が変形したりと被害は見た目にもひどいものばかりで、「ネアブラムシ」と調べるとずらっと対策法が出てくるほど。筆者の実家にある果樹もこれらの被害を受けまくっており、ネアブラムシ・チョッキリ・カイガラムシは三大害悪として見つけ次第ぶち殺している(※正しい対処法です)。チョッキリお前ほんま許さんからな。




