335 n:「ラスティングラスト・アフターロウズ」(1)
注目度46位/27位(連載中)入り、ありがとうございます。何が起きてる……?? PVでもないしポイントでもないみたいなんですけど、ほんとになに……
どうぞ。
退屈していたところに、よい話が舞い込んできた――そのような反応に見えたが、ヅィーブルは即座にその話を蹴った。
「断るー。オレさまはちゃんと名乗っただろぉ、「享楽の勇者」だってー! 使命感なんかありませーん! オレさまを釣れるとしたら、酒! カネ! 女! そーゆー楽しいモンだけよー?」
「任期のあいだはそういったものに費用をかけることもできますが……あなたは【常人】でしょう?」
「なに、【愚者】以外もお酒飲むしパコパコするじゃんー? そのためにお金も必要だしー」
「……ほんとうに、【常人】の堕落は深刻ですね」
これで役に立てるなら、と紺色のバニースーツに身を包み、足を組み替えては股の部分や太ももの変形に視線を惹きつけさせているフィエルは、口では何も言わないが、呆れている様子だった。
(神の力が弱まるのも当然ですね。このような【常人】が多いようでは……)
大昔、ヒトという生き物が神によって生み出されたころ、「意志の証」は大志を抱く人間にしか現れぬものであった、と伝わっている。人の世が栄え、人々の信仰が神を生み出してからは、かれら「人の神」が加護を与えることで、生まれながらに生きる道が定められることとなった。
【常人】の意志を守護する「歯車と道の神」は、明確な個我を持たず、それゆえきわめて多くに加護を与える「もっとも広い神」である。しかし、その個我の薄さから、ほかの神のような意志への強制力が弱く、【常人】として生きようと努めるものはそう多くなかった。このヅィーブルのように享楽に溺れる【愚者】もどきは、その典型的な例である。
「だいたいよー、その聖剣ちゃんが何とかしてくれんだろー? このハイムノア、もう二度とあんなやべーの入ってこないと思うぜー。オレさまがいるから出て来られないんじゃあねえのー? オレさまってば、あの事件があってからとくに警戒態勢とか敷いてないんだぜ?」
娼館で四人同時に指名して誰が乗り上手か決定戦をしただの、朝まで飲み比べをして酒場を叩きだされただのといった、聞くことすらばかばかしい話がいくらでも飛び出てくる。
「んでルピーノちゃんの吹いても続けちゃう腰使いと名器具合が……おっと聞いてないかー。お客無視して自分だけ楽しまにゃあナンバーツーから抜け出せるのにねー。で、まだ続けんのー?」
「何も期待してはいませんでしたが、まったく……。言うことを聞くだけ、下っ端のチンピラの方がマシでしたね」
立ち上がるゾミアに続いて、フィエルもまたソファーから立ち上がる。そのまま退出すると、ヅィーブルがすさまじい勢いで叱責されているのが聞こえた。
『このバカモン、あのフィエルがハイムノアから手を引いたらどうする!? 若衆が足抜けして、この街が立ち行かなくなるかもしれんのだぞ!!』
『だってさー、どっちも処女っぽくて色気ないんだもーん。教会騎士とかぜったいマグロじゃんかー』
「わー、最低……」
「行きましょう、フィエル。お前には借金の返済だけを求めていますから、この街に関わるなと強制することはしません」
「まあ、なんていうか……言われ慣れてるので、そういう下ネタ」
「着慣れている様子ですから、そうなのでしょうね」
鎧や分厚い服、面積の多い服は防護を意味するという――女として見られることが苦手なゾミアは、そういった服を着がちだ。しかしながら、若くして酒場の女や商売女のような服装を好むこの少女は、そういった視線を浴びることに慣れている。興行はまず目を惹くものであるとはいえ、かなり擦れているように思えた。
「やっぱり、集まってないんですね」
「でなければ、どうやっても無理があるここへは来ません」
街には風土がある。その街にいる人間が何を好むかも、だいたいは決まっている。寒さに耐えながらの厳しい労働は、その後の美味い食事と強い酒をより高める……鉱夫や職人はそうだが、修行や寒さから逃げ出したマフィアは違う。廃坑の分かれ道でモンスターを狩っていればマシな方で、強盗で作ったカネを使って、酒場で豪遊することさえ平気だ。
ヅィーブルは、後者だった……骨の髄まで、それが染み付いている。
「リルゥちゃんは元気ですか? ワルイダーの人たちも、協力してくれてるみたいですけど」
「ええ、我々は巨悪だとしきりに言っていますが、草の根活動で支持を集めています。それほど悪い人間とは思えませんが」
「なんていうか、ポーズみたいな……? ほら、名を残したくて二つ名を自分から名乗るみたいな、そういう感じです」
「ああ、なるほど。根無し草を引き入れて職業訓練を行ったり、奇妙な発声訓練をさせたりと目立ちますが……行動の指針は、正教会と似通ったものに思えますね」
あの「ワルイダー!?」「アーっク!!」という掛け声は、兵士の訓練と似ているが……それにしては、引き入れる人材のランダム性が高すぎるうえ、社会復帰支援をしたのちに放流する動きが意味不明に過ぎる。
「あっアネゴ、教会騎士なんか連れて……! 街と絶縁宣言しに来たんスか!?」
「違うよー、勇者と交渉したいっていうからお手伝い。これとか、ここでしか買えないものあるもん」
「っス! かーちゃんの店で買ってくだすって、ァざまっス!」
「また買いに行くねー。気になってるやつあるし」
ひらひらと手を振るフィエルを見ながら、ゾミアは少女を放って歩き出した。
下流くにくに豆知識:
〈娼妓〉は【常人】がいちばん人気。【愚者】は解で美容詐欺しまくるうえ、トロけて集中が途切れると素顔が分かってしまうため。逆に、騙してナンボの〈奇術師〉やら〈踊り子〉〈道化師〉は【愚者】がすっごい人気。子供のおもちゃ屋さんに売っている仮面は、だいたい人気な〈奇術師〉〈道化師〉あたりが持っている意志の証のレプリカである。




