333 濡れて黒くなるのは何事も同じなら水ぶっかける
どうぞ。
この黒い和装バニーを着るとき、私はいつも……脳がさあっと冷えていくような、逆に熱いような不思議な感覚を覚えている。穏やかな心地よさではなくて、異常な熱を持った興奮――ログアウトするといつも、胎の奥にじんわりした甘いしびれが残っていて、残り火みたいな温度でねっとりと濡れている。
「雰囲気変わるなぁ。ボールは出さんでええの?」
「下駄じゃトランポリンしにくいので」
木を削って作った飾剣を出して、カードといっしょに回転をつけて投げる。
「硬ったぁ……! ずるいわ、こんなん!」
「けっきょく、職人も戦えないと素材ゲットできないとかあるみたいですし」
スキル〈アクアクラフト〉は、今でも持っている人が少ないみたいで、これで何か作ってほしいというクエストは取り放題だった。ものすごく固い金属で作ると、同じようにめちゃくちゃ固い木材も彫れるみたいだけど、水で削るこの方法は今でもまだまだ使えている。
琥珀色の人型は、分身に袋叩きにされて足止めされている。
「あーもう、ほんまに! せやったら、こうしたるわ!」
「あはぁっ、それ最初の配信で使ったやつですね?」
カードデッキと木剣が呪われて、使用不可になる。さっと外したハットに放り込んで〈ウィ・ザード〉を使った……ディーラーのような悪魔と木製の剣道の門下生みたいな悪魔が現れて、やっと腕だけ伸ばした琥珀色の液体に呑まれた。
「強いのに、機動力があんまりないみたいですけど」
「フィエルはんみたいな対応力求めてくる人、ほかにおらへんて……」
「それもそうですね」
「目ぇ怖いわー。でも、その目……うちはけっこう好きやで」
すう、と吸い込んだ酸素の許す運動を、六本続けて投げた木剣で二割くらい使った。とうとう弾き飛ばされた黒い刀は、ゆるりゆるりと空中で回っている。たんと飛んだ軸足を地面に付けて、右足を首元に回した。とっさに出した苦無がそれを受け止めたけど、私と涼花さんの敏捷はまだまだけっこう差があるようで、押し切れてしまった。
「受けて、みると……けっこう、すごいもん、やね!」
「あはははっ! そうでしょー?」
パン、パパパン、パパンパンッと……〈アクセルトリガー〉は、ほとんど無限に続くキックを叩き込んでいる。最後の抵抗として太ももを掴んだ手を、ぐっと下げた足とみぞおちを蹴り上げた足で揺さぶって離させる。
「はあっ!」
落ちてくるチョウのようなミニドレスを回し蹴りで吹き飛ばして、岩に叩きつけた。
「もー、あかんわー……でも、AI行動にはちょっと通じるみたいやし、収穫やね」
「ふふ。久々に、ちょっと熱くなっちゃいました」
「せやったら良かったわー。またなんか買いに来てな!」
「いつでも行きますよー。では!」
カードでとどめを刺すと、涼花さんは手を振りながら砕け散って、セーブポイントに帰っていった。
ふと何かいやな気配がして、後ろに回し蹴りを繰り出すと、どこかから飛んできていた岩を蹴り返す。
「ん、なんだろ」
「ザッ、ザーザ」
顔のついた人型のサボテンみたいなもの……「カクタスドール」というモンスターが、ちょっと遠い岩場で次の岩を掴み上げていた。
「ザーッザ」
「ふふーん、名指しのカウンターちゃんとあるんだよー?」
タイミングを合わせて、〈ヴェンジェンス・キッカー〉を使った。私より大きくて、正面から受けたらたぶん死亡している岩も、ちゃんと蹴り返せる。少しはダメージになるかな、と思っていたら、とつぜん岩が爆発する。
「え、なに……」
「ザァザーッザ」
さっと避けたそこに、腕と同じくらいある化け物みたいな大きさの針が突き刺さる。砂埃がもうもうと巻き起こって、サボテンの笑い声がまた聞こえた。
「やっば……! これ、私がいちばん苦手なタイプの敵だ!」
全身に走った緊張に、心臓が再燃する。
「あはァははっ、ふふ……じゃあ、やらなくちゃ!!」
姿勢はそのままに、パンッと横にスライドして針弾を避けた。
「もっともっと、レベルアップしないと!!!」
亜空間名物、なんか唐突に出てくる異様に強い一般モンスター。ふつうのVRゲームものでいうレアエネミーとかフィールドボス・隠しモンス枠とかじゃなくて、マジで一般通過モンスターくんが謎に強いんですよね。いつからこうだったのかは不明なんですが、まあ亜空間名物ってことで。
そういやカクヨムでも新人賞に応募してみようかなと思って、あっちでウケのいいジャンルとしてダンジョン探索×TS魔法少女もどきを書いてみました。ご興味などあればどうぞ、パイロット版くらいの分量しかないけど……
『TS女子、ダンジョン学園で魔法少女(物理)する。~ハズレ初期装備とバカにされてるけど、底辺詐欺なただのチートでした~』
(https://kakuyomu.jp/works/2912051601475599217)




