332 白黒バトルは黒に落ち着く?
どうぞ。
横倒しになった徳利みたいなものが、手の上にあった。とぽとぽと琥珀色の液体がこぼれたかと思うと、そこに投げた呪符と木材を吸収して、飴細工のようなスライムのような、ふしぎな人型が生まれた。すぐに木の人形に呪符をベタベタ貼って、琥珀色の液体でコーティングした、よく分からないものに変わる。
「なんですか、これ……」
「果実酒てあるやん? めっちゃ強いお酒と氷砂糖使こて、果物漬け込むお酒。もともと日本では「年経たモンは妖怪になる」て言われとるわけやし、ばけもんの巣には山ほど骨が積み上がっとるんがお約束やろ?」
「そう、ですけど」
「これ、邪気を祓うお酒やのうて、呪いに浸ったお酒モドキやねん。ミツバチを倒してドロップした……要するに胃袋から掴みだした蜂蜜やらなんやら、怨念がこもったモンを山ほど混ぜ合わして仕上げとるんよ」
成分はほとんどお酒そのもので、おそらくアルコール分もあるけど、由来が邪悪だから邪気を祓う役割は持てなかった……疑似霊魂を入れて方向性をまとめてあるから、暴走はしないけど、力はかなりある。呪物を投げ込むことで起動し、これまで投げ込んできた呪物の力をある程度記録し高めて使う――ややこしい貯金みたいなやつだった。
「さ。うちはこの子がおらんとあかんけど、そっちは一人でええんやろ?」
「あの子を使いたかったんですけど……まあ、いいや」
アズリを表に出せば、呪いへの抵抗はかんたんになる。でも、そういう遠距離タイプのデバッファーというよりは、イヴやフィーネみたいな近接・中距離型に見えた。いつもの白いバニースーツのまま、ボールをいくつも出してバウンドさせ、分身して飛び乗りトランポリンする……最近はあんまりやっていなかった「白バニーさん」の復活だ。
「行くでぇ!」
「来てくださーい」
チョウのような和風ミニドレスを翻しながら、涼花さんは迫ってくる。真っ黒い刀と飾剣が打ち合う……お互いの強度は似たようなものらしく、なぜか火花も散らない。〈面歩〉の効果がある程度反映されているのか、涼花さんも少しだけトランポリンできていた。
「ふふっ、すごいですよー。上下入れ替えましょうか?」
「またよぉ分からんこと言うてるわ! 九人の攻撃しのぎながらひとり狙うだけで、ほんまに大変なんやからな!?」
私の戦い方は、相手の思考を完全に塗りつぶしてタスクをいっぱいにし、多すぎる攻め手で削って、いくつもある必殺技を繰り返し叩き込むというものだ。ボールを潰したり、分身を一体ずつ倒したりと、いろいろ攻略法を考えてくる人はいるけど……けっきょく、私本体を狙うのがいちばん早い。
「あの子はタフやし、防御系のスキルと特技アホほど積んでるから、攻撃受けてもろてるねん。まさか、フィエルはんにもここまで通用するとは思わんかったけど!」
「涼花さんもトッププレイヤーですからねー。それに、私の火力ってけっこう低い方ですし……」
「むちゃくちゃ言うてるわー。まあそうなんやけど」
「あはは……」
ボールをいくつか浮かせて固定し、飛び回る。分身の陰に隠れたりはせず、ちゃんと打ち合うことにした。小さめのキックを打ち込むと、案外当たっている。
「加速キック、ズルない? なんでこれが仕様通りなん」
「コストけっこうすごいですよ。連続でやりすぎると、消費早すぎて上限にぶつかりますし」
「それに! なんなんアレ、分身何体も倒せとんのに……!」
「ふふん。あれ、魔王虫から落ちた装備の力なんですよ」
バニースーツの腰ひも部分に絡めた、ふんわり蝶結びの青白い「メビウス・リボン」。もとになったイナゴと同じ、「分身が消えるとき、確率で分身が現れる」という、狂気じみて強い能力があるアクセサリーだ。強すぎて、装備補正は器用が二くらい上がるだけだけど、分身を使う人にとっては垂涎の品だろう。
とはいえ――相手の攻め方も、ただ真っ当なやり方ではない。
「めっちゃ威力低いし、ジョブ制限もあるんでしょうけど……怖い刀ですね」
「せやろ? 〈呪術師〉にしか使えへんから、ほんまに弱いんやけどね」
打ち合っただけで、相手のHPが無条件に削れる刀。そもそも前衛じゃなくて職人系の〈呪術師〉にしか使えないとか、装備補正も強度も低いとか、いろいろ制限はあるんだろうけど、それがあってもなお「打ち合えば削れる」……相手と同じくらい早くなれば、いくら防御されてもすべて貫通できるのが強すぎる。
「ふふふ、こんなもん対人以外やったら何の意味もないから、本邦初公開やでぇ。おひねりは飛んで来ぉへんかなー?」
「じゃあ、涼花さんをひねっちゃおうかなー。楽しくなってきたし――」
和装バニーに着替える。
「こっちでやりますね」
チートの応酬がチートすぎる、これ制限設けた意味ないだろ! まあリボンは相対的に弱いけど、このゲームの分身って「ステータスはコピーできてるけど装備を持ってない」こと以外に制限ないしなぁ……ま、加速斬撃してもノックバック一切ないから秒で折られそうなのがなんとも。これも分身か従者でパスしまくって「誰が脅威でしょうかー!」やるのが強そうですね。




