327 第二:「王編十六章が十一・“忘却の大河を逝く蒼の花弁”」(2)
どうぞ。
デュデットワ中央付近、大通りの中央でその女は叫んだ。
「私はトランブル! この「双霊の剣」に選ばれた勇者だ!」
かなりの問題児ギルド「すらラヴ」から枝分かれしたフェティシズム系ギルド「素パイスー」は、いくつかのギルドから依頼を受け、その宣言に至った――パイロットスーツ愛好家の中でも全身タイツ派の「トランブル」は、いかにもそれっぽい豪奢な剣を掲げ、勇者になることを宣言した。
(今のところ、変化はない……「剣霊」のドロップアイテムを加工した、今のところ最高峰に近いアイテムのはずだが)
タウルヴァンス大陸にあるダンジョンの中でも、かなりの高難易度を誇る「尽きぬ恩讐の冥途」……シナリオ対応型の古戦場の道中で戦える「剣霊」は、フィールド全体をうろつくタイプの強敵である。防御を貫通する攻撃が多く、なおかつ武装を破壊する特殊技を持つ難敵だったが……ディリードが受けてしまえば、そこまで問題にはならない。
古戦場に転がったいにしえの名剣は、その時代の技術をそのままに反映しており、今の冶金・鍛造技術にとっても大いにプラスになるものだった。そういったものをいくつも集めて精髄を取り出し、似た性質を持つ「魂の魔石」を加えることで、弱体化しているとはいえ剣霊を呼び出す名剣が完成した。
「現地人は詳細を知っていると思うか? 旅人は、たしかに特別扱いされているが……同時に、厳しい制限も受ける。彼らが「旅人は勇者にはなれない」とひとことも言わず、内心でそうだと知っている可能性は……あるのか」
「心配しすぎじゃないの、リーダー。ひとりずつ悪人はいるだろうけど、全員が結託してるってことはないでしょ……ひそひそ話くらいするんじゃない?」
そのような様子は見えない。あるとすれば、結果としてそうはならなかったため、これ以後の似たような活動がすこし難しくなるといった事態が起こる程度だろう。
(いや、世界観上は一度しか起こらなさそうなイベントだが。それよりも、俺たちのタスクの方が重要だ……ボス戦はバトンタッチする以上、場を整えなければ)
地図から不自然に消えた場所は、いくつかある。そして、その基点と思われる場所は、意外なことに、ある配信で映っていた場所だった。
「そのカオ、もう移動するのね。ちょっと面倒な場所だけど、どうするの?」
「真っ当に、走る。それほど長い距離じゃない」
フェルニコラズの港から山を越え、魔王虫の刻み付けた峡谷を超えた先……フィエルが「ルリオサムシ」という魔王虫と戦い、ディリード自身が渡した〈デザストル・クロウ〉のモンスタージョブで勝利を収めたその場所は――なぜか、地図から消えていた。
物理的には存在し、視覚でも捉えられているはずの場所だが、ゲノ=メニエフやハイムノア、フィゴ・サ=ヴィオといった街はすべて、この水のない峡谷から大きく外れた場所にある。
「地理的に言えば……当然か」
「配信コメントでもあったよなあ、文明は水とともに発展するって」
すべてを破壊しながらひたすら直進する魔王虫は、下向きの軌道で地面に突っ込み、止まるまで地面を断ち割り続けた。虫は洞窟どころか地下水脈や岩盤をも鏖殺し、タウルヴァンス大陸南西部はめちゃくちゃになってしまった……そもそも雨の多くない地域であったとはいえ、水脈の寸断はあまりに大きな痛手だった。
(自分たちを改造しようとしたのか、それとも“完全な魔道具”でも作ろうとしたか。鉱竜と絶滅戦争になるほど揉めたのは、より強い魔力を持った宝石の取り合い、だろうな)
フェルニコラズの人々が「懐胎の偽神」を召喚するに至った経緯は、今となっては想像するほかにない。しかし、鉱竜との絶滅戦争と水源の不足、呪物の行使という証拠は、資源トラブルと対抗手段がある程度合流していたことを示しているといえよう。フェルニコラズの港から見上げた山は、山脈というほど高くはないが、丘というには高すぎる。
「オメガ」
「了解、リーダー」
古代の機械兵器を掘り出しては修復や復元を行っている「†究極兵装壱式/桜冥臥†」は、さまざまな兵装を隠し持っている。何人も乗れるホバークラフトもまた、そのひとつだ。かごに乗り込んだ四人は、かなりの速度で進むホバークラフトに乗ったまま、見たことがあるはずの場所へ向かった。
峡谷付近に近付き、配信を見直しながら、彼女がたどったと思われる道をなぞる。
「あれね? まだ痕が残ってるわ、あのとき脚が引っかかったところね」
「地図は……ここで切れている、か」
激闘の痕跡は、たしかに残っていた。魔王虫が墜落して足掻き、脚を引っかけた崖。峡谷の谷底で、地面から突き出した槍があったとはいえ、大質量が落下したことにふさわしいだけのインパクトの痕跡。
「あれか? あの青い花……理屈は知らんが、砂漠の花は赤白黄色じゃあねえのか?」
「紫外線を防ぐためだな。あり得ないとまでは言わないが……ある程度は現実準拠のシミュが、いかにも不自然なものを配置する理由は」
全員が武具を展開する。ホバークラフトが青い花の近くを過ぎた瞬間に――視界が、ぬるりと塗り替わった。
今回参考にした記事
「自然界に赤い花は少ない? 白い花の本当の色って? 花の色のふしぎ」(https://www.honda.co.jp/kids/explore/flower/)
分かりやすくて面白い記事でした。っぱ子供向けの記事から読むに限るな! 大学の記事も出てきたんだけど単語は細かいのに内容うっすくてさァ……で、↓
赤=鳥に見えやすい(すっごく遠くまで花粉を拡散してほしい、生息域が広いor個体数の期待値少なめ)
黄色=昆虫に見えやすい(花自体をぶっ壊されると困る、数キロ圏内に同じ種類の植物がある)
ってことみたいですね。サボテンが赤~ピンク多いのってそういう……? と思ったけど黄色・白も多いんですよね。やっぱ植物の進化に頭で追い付くの無理だわ(当然)




