325 ピンとふにっと、フォーカスはもっと
どうぞ。
そんなに特別な人間ではなかったし、何かすごい才能があったわけでもない。両親には恵まれて、けっこう遅かったけど、終生の友達にも出会えた。そこまで追い込まなかったからだ、と言われそうでもあるけど、大きなケガも手術もしていない。
「めっちゃ普通だ……」
「逆になに期待してたのー、そんなにすごいもの出てくると思ってた?」
「だって、フィエルはあんなに強いし、反響定位とかもできるし」
「あれはほら、なんとなく。できるよ? わりと」
アルカも千紗も意外そうにしているけど、私の方が苦笑いする羽目になった。私が白バニーさんとして配信に出ると盛り上がるけど、リアルの私の人生を書き綴っても、たぶん誰もまじめに読まないだろう。そのくらい、ただひたすら普通だ。
「アカネっちはさー、なんで墨帖さんのこと好きなの?」
「ないしょ」
「揺城先輩のタイプって、こういう人なんですか? 確かにイケメンですけど」
「星奈は墨帖さんに不満あるのー? 言ってみて?」
「なんかこわい……」
身長も高め、顔もいいし筋肉の付き具合とかもいい。いざというとき身を挺してかばってくれるし、リアルスキル組として現実で頼ってもよさそうに思えることもある。いろいろ不思議なことも起こるから、たぶんオカルト的に頼ってもだいじょうぶだ。
「あ、そうだ。ぶっちゃけ聞いちゃうんですけど、墨帖さん! 社交界っていい人いないんですか?」
「ぶっちゃけますね……。いないとは言いませんよ、グループの戦略として手に入れた方がいい女性もいますから」
「わ、せ、政略結婚とか……!?」
「直截に言えば、そうなりますが。僕は四男ですから、そちらに使われても文句は言えなかったでしょうね」
イヴニングが似合う、おっぱいが大きくて美人な女性。足がとってもきれいで、コスプレなんかも大好きだからインフルエンサーとしてけっこう有名な女性。父の会社に多大な貢献をしている、学生時代からすでに独立したのちのことを考えている能力のある女性。いわゆる社交界で出会った女性たちは、墨帖さんの目から見ても輝いていた、ようだけど。
「……そうですね、皆さんは……まったく興味がない品物がずらっと店頭に並んでいたとき、立ち止まってしっかり見ていきますか?」
「女の人、興味ないんですか?」
「いや、そういうわけでは。そうですね、ダイアモンドに価値を見出すかどうかに似ているでしょうか。ふーん、としか思わない人もいれば、魅了されてやまない人もいる。彼女らは、ダイアモンドだった」
抱きしめられるぬいぐるみでもない、日ごろから親しむ道具でもない、眺めて楽しむ宝物でもない。少年の心は動かず、父親にも大いに笑われた。
「まあ、たぶん……お願いすればレオタードなり着てもらえたのでしょうし、もっと話してみれば発見もあったかもしれませんね。ただ……僕は、お互いが何かを見つけられる関係でいたいんだと思います。僕はアクセサリーではないし、彼女らもそうです」
夫婦でいられるし、パートナーでもいられる。けれど通じ合わないし、ケンカにもならない……間に何もないから、何も起こらないのだ。小さくそういう説明をして、墨帖さんは肩をほっぺで押した私の腰を抱いた。
「ぶつかるほど熱がない、摩擦というほど触れ合わない、冷え切るというほど温まらない……そういう夫婦もいるのでしょうが。僕はそういう関係はイヤだったと、そういう話になります」
「しれっと抱き寄せてる! おあついねー」
「ふふん、熱いよー。この通り真っ赤だよ」
「こ、この二人! 摩擦してぶつかってあったまるんだ……!」
「千紗? ちょっとおはなししよっかー」
「あだだだだっ」
照れ隠しで千紗のほっぺたをぐりぐりやりながら、立ち上がった。
「ごはん食べるには早いんだけど、なんか買いたいものとかある? 墨帖さんは?」
「僕は、特には何も。荷物持ちをしましょうか」
「じゃあランジェリーショップとか行こうよ! アカネっちが嬉し恥ずかししてるとこ見たいし!」
「え、もう持ってるしいいよ?」
これどこで買ったと思ってるの、とスカートをちょっと持ち上げて、ガーターベルトを見せつける。ちなみに、ここのデパートは来る年齢層がちょっとアレなので、こういうのは置いていない。
「れ、レベルが違いすぎて……なんか、ヤバいよ!」
「もうえっちなことできる人なんだ……」
「そっか、大学生ってもう成人なんですよね」
「すみません、周りの視線が痛いんですが……」
またお店教えてあげるね、と三人娘に微笑みつつ、けっきょく服飾店が並んだあたりの服とかランジェリーとかは見ることになった。
すでに何度も申し上げていますが、本作の百合タグは同居ベタベタ関係によるものであって、最終的なところはNLに落ち着きます(決定事項)。キャラの人生を最後までシミュレーションしちゃうタイプの人間としては「百合ってその後どうすんの?」って思っちゃうんですよね。一分で百年作れる亜空間アタマで申し訳ない……




