323 第五:「天空大聖剣ウル=グランザー」(2)
どうぞ。
それは、主のために存在する剣であった。よくよくタウルヴァンス大陸の伝承を集めてみれば、「人に味方する機械竜」といったようなものもあるのだが、大陸はあらゆる分野での天才が多かった土地である……何かしらの人形あるいはゴーレムの発展形、あるいはモンスタージョブの暴走とみられたまま、歴史に埋もれていた。
「これは、聖剣詐欺というか……なぜ聖剣なんだ?」
『吾輩は聖剣である。それ以上の理由はない』
「そ、そうか……それは失礼したな」
『さあ、我が第二の主よ。吾輩の内に入り、吾輩をいかようにでも動かしてくれ。吾輩は、君の命じるままに動こう』
向こう側の空間は、マシンドックのような仕組みは何もない、ただの竪穴だった。そこに浮かぶウル=グランザーは、胸のハッチを開ける。
「でも、私……おうちもないし、みんな死んじゃったから、何もすることないよ」
「街に行って、誰かと暮らすのはどうだろう? 我々「秘密結社ワルイダー」は、君のためにどのような手間も惜しまない」
ワルイダーの構成員に、孤児はおそらくいないが、精神的に孤立しているものはいる。そのような人々の居場所でもあるギルドであっても、しかし……NPCの孤児を育てることについて、責任を取れるとは言えない。
「街……かぁ。街にいても、いいのかな」
「私の知り合いには、正教会の重鎮と仲の良いものもいる。大丈夫だ」
「うむ。今もログインしておるようだど」
「すぐに来てもらおうか。……聖剣よ、この少女の考えを確認するために、翼を貸してはもらえないだろうか! すぐに済む話だ!」
『よかろう。彼女をただ遺跡に閉じ込めるわけにもいかない』
ハッチの内部が光り輝き、ワルイダーの構成員とリルゥを内部に取り込んだ。竪穴をゆっくりと上昇し不滅遺構を脱出、砂漠の空を飛ぶウル=グランザーは、あくまで静かだった。
「おじさんは、何の仕事をしてるの?」
「おじさんではない、お姉さんだ。……今は静かに学び、より大きな組織を作るための準備をしている」
大首領ダ・ダークは、鎧から白く美しいドレスに着替えて、リルゥと手をつなぐ。
「さて、彼女は――来ているな、仕事が早い」
「横のが〈教会騎士〉か。転移ゲートはあるはずだが、連絡してすぐ……な」
人間らしい服装で来いという注文に応えてか、ギルド「水銀同盟」の道化フィエルは、黒いパンツスーツで立っていた。横にいる女性はおそらく〈教会騎士〉、彼女が知り合いだと言っていた本人だろう。
「聖剣よ……君は小さくなれるのか? あるいは、彼女の中に潜めるか?」
『吾輩は、ひとつの“解”だ。ゆえに、このように――』
すうっと光の粒子が寄り集まり、リルゥのペンダントの中に収納された。
『小さく収まることもでき、緊急時には意志に関係なく出てくることもできる。我が主よ、力が必要なときにはいつでも呼んでくれ』
「うん、わかった!」
その光景を見ていた二人は、ゆっくりと歩み寄ってくる。
「えっと、ワルイダーで子供を保護したって聞いたんですけど……変身ですか?」
「評判はあまり良くないようだけど、なぜ素直に引き渡すのかしら」
「それは、俺から説明しようかな。それほどおかしなことじゃない……」
鬼蜘蛛が前に出た。
「どんな外道だって、「こうなりたくなかった」って思うもんだ。俺が望んでこうなったと思うかい? あんたにこうなれと言うと思うか」
「……子供にやさしい感じ、「カメン・ナイトランナー」みたいですね」
「あんたも観てたか……。まあいいんだ、子供には優しくする、それが俺たちのルールだってことさ」
抽象的でぼやけたことしか言わない男は、ドンが少女を引き渡すところを見届けて、ゆっくりとワルイダーの仲間たちのところへ戻る。
「リルゥ。新しい暮らしと、新しい友達や仲間ができて……みんなを絶対に守りたいと思ったとき、聖剣を使うといい」
「ドン、でも私……何にもないよ」
「お世話をしてくれる人や、友達ができるさ。暮らしていくために仕事も覚える。新しいお布団に慣れたとき、仕事が少し早くなったとき、それが君の手に入れたものになるんだ」
「じゃあ、そのときに……それがなくなりそうなとき、聖剣を叫ぶんだね」
白いドレスの女は、踵を返す。
「そうなるな」
「ドンはどこ行くの? この街に住んでるんじゃないの?」
「フフフ、我々は彷徨うもの、陰にあるもの。また会おう」
「あっ……!」
ふっと転移して消えた「秘密結社ワルイダー」は、事実上「天空大聖剣ウル=グランザー」の支援者となった。
正教会と「水銀同盟」「秘密結社ワルイダー」、三つの陣営から支援されることとなったウル=グランザーは……しばらくの間、沈黙を保っていた。




