317 第一:「克死の龍剣」(2)
どうぞ。
宙を舞った赤い剣は、岩とは思えない身軽な動きでの跳躍で、すぐさま取り戻された。
「めんどくせー縛り入れてるなー? いや、誰も味方してくれないからかー?」
自らが殺傷・破壊したものを改変して扱う赤い剣は、しかし、それ以上に本体の動きを補助しない。剣技や魔法も使っておらず、あくまで物理的な性能で以て戦闘を繰り広げている……それは、この剣のルールをこれ以上ないほどにはっきりと示していた。そしてそれは、ヅィーブルが思っていたことでもあった。
永遠の戦士は存在しない。どれほど優れた技もいずれ鈍り、強大な肉体もいずれは衰えて萎んでいく。無尽、無限、永遠、どれも実在しないからこそ夢想された概念であり、それを叶える手段は存在しない。そのようなものがこの世にあるとすれば、精強な肉体と頑丈な武具が補充され続ける「取り換え可能な個」くらいのものだろう。
きわめて不気味なことに、赤い剣はそれを実現していた。
「ヒューイ、全員治して」
「ピョーッ!」
巨大な青いシカが現れ、あちこちに倒れていたチンピラどもを治療していく。その主らしい青いバニースーツの少女は、屋根の上から二人に問いかけた。
「どっちに味方すればいいの?」
「見りゃ分かるだろー? このイカしてるおじさんの方だよー!」
「ゴゥウ……」
「おじさんかな……? まあいいや!」
黒っぽい棒を振るう少女は、明らかに赤い剣の速度を上回り、岩人形の体を少しずつ破壊していく。
「お嬢ちゃん、あれに斬られるなー! 死んだやつを次の依り代にしちまうぜー!」
「じゃあ、そこの死んでる人が前の……!?」
言葉を発しつつ、棒術はまったく鈍らない。
「あ、姉御……! フィエルの姉御じゃないっスか!?」
「一回しか蘇生できないから、避難しててね。事情はあとで聞かせて」
「ウッス!!」
「おー? オレは知らなかったが、名が知れてるんだなー」
今の言葉が真実なら、彼女は死んだ命を蘇らせる力を持っていることになる。どう考えても死んでいたチンピラたちも、全速力で走り去っていた……わずかな負傷ですらないと確信できるほど、おそろしく元気だ。
「それで、イケてるおじさん。あなたが勇者?」
「けっへっへ、いいねー! そう、オレこそ「享楽の勇者」ヅィーブルだぜー!」
「え、享楽の……?」
一般的なイメージからはかけ離れた言葉の使い方に、少女は困惑している様子だった。美しく流れるような棒術は、岩人形を幾度も打っては砕き、とうとう赤い剣を腕ごと弾き飛ばした。高々と弾き上げられた赤い輝きが、やや弱い街灯を反射してチロチロと揺らめく……じゃああっと伸びてきた鎖が、ちぎれた岩人形の腕と赤い剣をからめ取った。
「なにー……いやちょっと待て、今の鎖ってどこからだー?」
「テイムモンスターに自分の武器を持たせて、モンスターごと回収したみたいですね……ここまでやるなんて、よっぽどバレたくないみたいです」
ぐったりと崩れ落ちた岩人形は、砕けた岩へ戻って「死んだ」ようだった。
「こっちの人は……ヒューイ、蘇生できなかったの?」
「ピュウ」
「珍しいなー。私は見えないんですけど、この人ってどうやって死んじゃったんでしょうか」
「おー? ああ、なんだっけ。旅人って血とか傷とか見えないんだったかー?」
旅人は、生きていないがゆえに、生きるもののすべてを受け止める心が育っていない。とくに命に強くかかわるものは、かれらの目にはひどくぼやけて見えるのだという……神の加護は人智の及ばぬ不可思議なものだというが、ヅィーブルのような人間にとってはまったく不思議な話だった。
「そうだなー。お医者さまに見せりゃあもっと詳しいだろうが、めった切りめった刺しって感じだぜー。ここ……これが、あの剣で刺された痕だろうなー」
ちょうど肝臓を狙った、やや上向きの刺し傷。こういう刺し方をするのは、この青年よりも背が低いか、明確な殺意を持っている相手であるかのどちらかであろう。ざざざっと現れたチンピラどもは、担架を持って死体を街の外に運び出そうとしていた。
「あ、えっと……六号さん? だったよね」
「うっス、六号っス! ネクロマンシーでもやるんスか?」
「ううん、そうじゃないけど。見覚えとかない?」
フードを取り、顔を見せることで身元の確認を急ごうとした、のだろうが……それは無理な相談である、というほかなかった。
「げッ、うわ……姉御ぉ、こんなんじゃ分かりませんって!」
「お嬢ちゃん、若ぇのにこんなもん見せんなよー。相当だぜこれはー……」
「うわ、なんにも見えない……」
「ひでぇなあ、ナニやらかしたんだこいつー?」
原型がなくなるほど……人の手で嬲るのではなく、道具を使って行った中長期的な虐待の痕がうかがえる。そこらのチンピラが知る限りの情報では如何ともしがたいが、猟奇的な趣味のある「ハズレ」のマフィアに報復を受けた、と考えるのがもっとも自然だろう。
「ま、お嬢ちゃん……旅人がやれることはねぇからよー。ここはオレらに任してくれると嬉しいなー。【愚者】の出る幕じゃないぜー」
「何か分かったら連絡しますんで、姉御……うえっ。今のところは、引いていてくだせぇ。勇者探しはまた、別の機会に」
聞き捨てならない言葉をつとめて聞き逃して、ヅィーブルは運ばれていく死体に付き添って歩いた。
変なタイミングでカフェインを入れたせいで『クイド』みたいなノリになっている……
今回はNPCたちが中心になるので、ゲーム風ファンタジーっぽいお話×NPCから見たプレイヤーたちの姿、みたいなお話になると思います。就職できたあときちんと書けるのかどうか分かりませんが……




