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いつでも真面目ちゃん! ~VRMMOでハジケようとしたけど、結局マジメに強くなり過ぎました~  作者: 亜空間会話(以下略)
7章 月臨、花の降る

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310 黎明=その身に光をいだくもの

 どうぞ。

 焔の熱が巡り、ミライザーの体を燃え上がらせていく。たしかに感じる自分の鼓動に、巨漢は大きく息を吸った。


「因果は巡ると、お前のせいだと……光に生きるものたちは言うど。ならば光のものどもよ、偶然も理不尽も味わい尽くしたオデたちに、いったい何と言うのか……聞いてみたいのう」


 老人による運転だと気付かなかったのが悪いのか、コンビニの駐車場という場所に子供たちだけで歩いていたのが悪いのか。彼女たちに落ち度があるとすればその程度だ。相手側の老人は死に、賠償金は問題なく支払われ、遺族による真摯な謝罪もあった。若いころに車好きだった過去があり、そのためにひと財産を築いた剛毅な漢で、遺産の額面もそうとうなものだったと、のちに聞いた。悪人などいなかった……すべては偶然の巡り合わせで、ほんのわずかな積み重ねがすべて折り重なって生まれた事故だった。


「大きな流れはあるさ、人は砂粒みたいなものだ。けれど、人にはすこしだけ動く力がある。だから、どこへ行くか、どう輝くかを選べる」

「ぶほほ、お前も自分を闇に置いているようだのう」

「月が輝くのは、太陽(ひかり)がない夜だけだろう?」

「ぶほほほほ……! 面白いやつめ」


 黄金に光り輝く焔をまとうミライザーは、浮き上がって逃げようとする花畑を見据えた。


「人は理不尽になど屈せんのだど! 貴様らが何を奪おうが、不本意ながら……この輝きで以て奪い返してくれるッ! 貴様らに、オデたちの希望も未来もくれてはやらぬ!!」


 全身にまとう焔が爆発的に燃え上がったかと思うと、ごうごうと回転しながら収束していく。大文字に体を開いた超希望合体ミライザーグレートは、そして叫んだ。


「超絶ッ怒涛!! アルティメット、パーフェクトォおおお……!!!」


 心にある熱量をすべて込め、支えてくれる二人の手と、蜘蛛の足から伝わる温かみをさえ力に変える。


「〈ブレイズフェニックス・バースト〉ぉおおァあああああ!!!」


 合体ロボの全身に開いた砲門から放たれたエネルギーが、一点に集中する。ほんの一抱えしかない黄金の光が、夜を貫いた。


『がー、がが、がっ』

「うおぉおおおおおッッッ!!!」


 自らをはるかに超え、空を真っ二つに切り裂き、太陽をも超える光で夜を照らした光は――ツェレブルムを完全に消滅させた。






 それから、二か月のちのこと。


「あ、始まるよお姉ちゃん。ダンスのイベント!」

「もう、あなたの方がはしゃいでいるじゃない。観ている間は静かにね」


 すこし遠いデパートで、季節ごとに行われているという踊りのイベント。大きな教室やスポーツクラブまでもが参加しているというそれを見てみたい、という姉を連れて、眞築凪乃は牧塩の方まで来ていた。


 数か月前のあの夜が明けたとき、姉は急に「手術して、もっと歩けるようになりたい」と言い出した。三年ほど前に諦めた夢を……まるで三年間の葛藤が消え失せたかのように、語り出した。現実には、三年前とは違うところがいくつもあった――両親はひそかに手術の費用を貯めており、術式の内容も決まっていた。三年間の技術の発展によって手術費用は何割も抑えられ、負担にならない額まで下がっていた。諦めたことはすべて、できるようになっていた。


 ひざに人工関節を入れて、足自体の長さを変えるという……かなりのリスクがある術式だった。植皮や自家移植のための皮膚・筋肉も培養され、手術の準備には三週間ほどを要した。当日、全身麻酔で行われる手術は半日かかり、丸一日眠ったのちに姉は目覚めた。想像しがたい激痛にも耐え、しばらく歩けないこと、リハビリを行ったとしてもなお激しい運動は強く制限されること、すべてを受け入れて姉は退院した。


 いまだに車椅子に乗ってはいても、以前のように……ひざの位置が左右で違ったり、長さが違いすぎて靴が浮いていたり、といったことはもうない。大嫌いで使う気にもなれなかった「健常者」ということばが、少しだけ近くなったような気がした。それでも、突っぱねるつもりでいたが。


「わ、すっご。うにゅんうにゅん動いてる……」

「ベリーダンスね。あの動きが特徴なのよ」

「こっちは水着みたいなの着てるよ!?」

「全身を動かすから、全身きれいに見せる服ね。レオタードっていうの」


 いくつものボールを操っていた女性が、客席にも軽くボールを投げる。客たちはボールを受け取っていくが、こちらにも飛んできた――危ない、ととっさに動こうとしたが、さっと伸ばした姉の腕が、はっしとボールをつかみ取った。


「ボールかー。いいわね、バスケの特訓に付き合ってあげたのを思い出すわ」

「わ、忘れてよぉ。けっきょくお姉ちゃんの方が上手かったよ、あれ」


 はいっ、と合図を出した女性へ、順々にボールが投げ渡されていく。たんとバウンドさせて受け取ったり、ぬるりと横に流して控えに渡したり、真上に投げ上げたりと、すさまじい練度を感じさせるパフォーマンスだった。


「はい!」

「えいっ!」


 どうぞ、とばかりに差し出された手に、姉はボールをチェストパスの動きで投げた。くるりと巻き取るような動きのまま回転し、女性は投げ渡したボールを見やりながら、手に残ったひとつを高く投げ上げる。たん、と跳んだ体が着地とともに回転したかと思うと、すらりと伸びた美しい脚がボールをからめとって、床にどんと押さえつけた。


 また控えから投げ渡されるボールをふたつから三つ操り続け、パフォーマンスは終わった。イベントはまだ続いていたが、両親が呼んでいたため、周囲に断りながら抜け出す。


「買い物は終わったよ。ずっとじゃ負担もかかるだろう」

「もう少しはと思ったけど、まあいいわ。お腹も空いちゃったし!」



――あなたのその力は、あなたの大切な人を守るそのときに使いなさい。

――そうね、……片目だけ不思議な色をしている人がいたら。

――私たちに“協力”してくれる気になったら、教えて。いいえ……お願いじゃないわ。

――ふふっ。キミがまた、未来を守る巨神の力を使うと決意したそのときにね!



 あれから凪乃は、現実でもあの化け物を感知する力を得た。もう、姉の中に化け物はいない。代わりにできた空白には、たくさんの幸せを詰め込むつもりでいる。


(そう、オデは……「超希望合体ミライザーグレート」だからのう!)


 敵ではないあの女性たちの正体は、どうやらあの五人も知っているようだった。


(ここは「平和」。だから、だいじょうぶ)


 すこしだけ黄色みを帯びた午後の太陽は、もう目に痛くはなかった。

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