296 邪悪!! 悪に隠す悪!
どうぞ。
フィエルが通された部屋の内装は、これまで応接間だと思っていた部屋の何倍も豪華で、まるで高級料亭の一室のような場所であった。失礼かと思って靴を脱いでいた彼女は、こっちも和室で畳張りだったことを見て、なんとなくで考えたことも正解だったようだ、と胸をなでおろす。
「ほんまにごめんな。まさかと思たんやけど、……盗まれたみたいやねん」
「え? まさかなんですけど、ほんとに……」
――朝からで申し訳ないが、重要な連絡がある。ログインできるのなら、お願いしたい。
――これは文字で済ませられる連絡ではない。
「昨日たしかに受け取った心臓が……ないねん。持ち出しログも「盗まれた」になっとるし……強盗か空き巣か分からんけど、誰かが盗っていきよった」
「盗まれる理由はおおありですけど、侵入できるんですか?」
「ギルドメンバー以外は入れへんはずやけどね。……ただし、ジョブにそういう盗賊やらの盗み系が入っとるやつがおったら、倉庫のところに入ったうえで、盗みもできるわ」
「このギルドになら、いくらでもいそうですけど」
ほうやねん、と――涼花は嘆いた。
ギルド「タイトルタイルズ」は、職人の寄せ集めであり、かつスポンサーそのものでもある。そして、構成員について深く追及したり、加入・離脱について厳しく制限したりといったことはしていない。いくつかあるギルドホームにアイテムを預けるか、販売部門に譲渡するか……職人の手元からアイテムがなくなる可能性は、そのどちらかしか起きていなかった。
「よりにもよって、億近い金額を使こてくれてはるフィエルはんの……うちを信頼して預けてくれはったものを盗まれてしもたこと。ほんまに……申し訳ございません」
「ど、土下座なんて! やめてください、悪いのは悪い人ですよ!」
思わず吹き出した涼花は、「もう、変わらへん人やね」と静かに顔を上げた。
「ログは徹底して漁って、今日明日にギルドを加入やら脱退やらしとるやつがおらへんかどうか、見とくわ。ギルドマスター権限は変えられへんけど」
「そういえば、涼花さんは使ってるんですよね。ジョブスキルをギルド全体に作用させるってやつ」
「ほうやで。でも、やからっちゅうて、パーティーメンバーのジョブを全部調べ上げる方法もないし、メインジョブがどれでも、一時的に切り替えはできるしな」
ギルドマスター権限は、たとえばギルドを挙げて作った装備で全身を固めたり、メンバーが就いているジョブの力を借り受けたり、協力するメンバーすべてのパッシブスキルを同時に発動させたりといったことも可能とする。しかし、だからといって加入しているメンバー全員のジョブをすべて確認することはできない――できたとして、加入や脱退は毎日のように起こっている以上、追跡できる情報には限りがあった。
「あ、今日は私、リアルで用事あるので。これで失礼します!」
「ごめんな、こんなことのために来てもろて。また今日の夜にでも連絡するわ、安心してもらえる情報集めとくさかい」
「無理はしないでくださいね。では!」
「ほんならな!」
見送ったのち――涼花は今ログインしている幹部、シキヤマとギュンザーの両名を呼び出した。
「直近で加入して脱退しよったやつ、おる?」
「加入者はかなりいますが、脱退者はほとんどいません。昨日は二人だけです」
「どっちかになりますね。「シャノワール」と「ゴブロース」……」
「いまシャノワールて……なんで入れたん」
フランス語で「黒猫」……「秘密結社ワルイダー」の幹部「ねこ★ろーぐ」のプレイヤー名である。
「……陣営にある「ショコ・ラテ」のリーダーより推薦、と書いてありますね。喫茶店を経営しているギルドだったはずですが」
「カメンシリーズの初代様と逆のことしとるやん……それでええんかいな。玉鋼陣営にも連絡入れといて、店に直接行くわ」
涼花が突撃を決意する時刻、朝八時からおよそ七時間前……深夜一時過ぎにまで時は遡る。
「ドン、これ」
「どうした? 器臓のようだが……」
「ジョブを増やせるアイテムー。しかも二つも」
「そういうせこい盗みは感心しないな」
大義のために百万人を殺すことは是であれど、己の感情のために一人を殺すことは非である。「大首領ダ・ダーク」は悪であるために悪を為すのであって、罪を犯して悪となることは望んでいなかった。ただの窃盗など、彼の考える悪のためには小さすぎる。
しかし、こういった小さな悪を多く抱えて、ひとつの巨悪となる組織もある。ゆえにドンは、ろーぐが手癖の悪さから器臓を盗んだことは、自分が命じた罪であるということにしようと考えた。これが忠誠心である可能性の方が大きかったが、それを喜ばないからと素直に返却できる状況でもない……ヴィランが「ごめんなさい」と盗品を返しに来たとて、盗んだ事実に変わりはないのだ。
「だが、いいだろう。この私の心臓はッッ! 今のこのときより、赤と青の宝玉となる!!」
「いけいけー、ドン」
器臓を胸に押し込んだドンは、新たな力を得た。
(……ステータスウィンドウに、何か……?)
奇妙な鉄条網のような背景が、一瞬だけ見えたような気がした。奇妙な緑色に光る両目が、こちらを見ている……それに微笑み返すと、ろーぐは安心したように、適当極まりない声で「にゃー」と言った。
ワルイダーの幹部たちはバラッバラで、ドンに従っているフリをしてむちゃくちゃやってるカスばっかりです。たまにこういう、ガチでアカン方のことをするやつもいる。えっ生き残り? じゃ、死のうか(無慈悲)。いちおう書き出しておくと↓
「大首領ダ・ダーク」
悪役RPしたいだけの人……なのだが、「巨悪」を意識しすぎて「小さい悪行はやめよう」と逆に正義漢っぽくなってしまい、メンバーを萎えさせることも。メンバーに獅子身中の虫がいることに気付かず、フィノミナのかけらを仕込まれたりアイテムを持ち出されたりとやられ放題。
「鬼蜘蛛」
怪人RPしたい人で、怪人として活動させてもらえることに感謝しまくっている。勝ち負けしまくっていて装備ガタボロだが、それでもなお強い模様。
「レディ・ウェイブ」
なんかむしゃくしゃするから虐殺したい人。イカレ第一号。超巨大戦力なのだが、そんなに極めているわけでもない。強さとしてはまあまあ。
「ドクター・ボル」
悪の組織の博士ポジRPをしたい人。試し行動をするクセや叱られ・嫌われ性癖など、信頼と嫌悪を渡り歩きたいという病的な精神性の持ち主。ある理由から超希少な封印カードを盗み出し、フィエルに渡してしまった。
「ねこ★ろーぐ」
悪”役”ではない。




