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私は「自然科学、社会科学」と書かれた本棚を見付けると、そこに並ぶ民俗学の本の前で足を止めた。
怖い絵がたくさん描いてありそうで、気持ちが挫けそうになったけど、今は昼だし、ここは人も多い。
私は勇気を振り絞って、適当に抜き出した本を開いてみた。
でもマイナーな妖怪なのか、ああいう妖怪自体が存在しないのか、数冊の本で調べてみてもあの女の人に似た妖怪はなかなか見付からない。
半分あきらめかけながらも、新しい本を開いて捲っていると、やっとよく似た妖怪を見付けた。
和服姿の、長い髪の毛で顔が隠れた女の妖怪。
浮世絵みたいなタッチの絵だから、江戸時代辺りの絵師が描いたのかも知れない。
私は視線を横にずらすと、その妖怪の名前を見た。
そこに書かれていた名前は、『毛倡妓』。
解説を読むと、鳥山石燕の『画図百鬼夜行』に「ある風流士うかれ女のもとにかよひけるが、高楼のれんじの前にて女の髪うちみだしたるうしろ影をみて、その人かと前をみれば、額も面も一チめんに髪おひて、目はなもさらにみえざりけり。おどろきてたえいりけるとなん」と書かれているとのことだった。
古語辞典がなくても、これくらいの文章なら大体現代語訳できる。
要するに、「遊女の所に通ってきた遊び人が、高い建物のれんじ――何だかよくわからないけど、外から中の様子が見えていることからして、多分格子のようなものだろう――の前で髪を乱している女の人の後ろ姿を見て、馴染みの女の人だと思って前から見てみたら、その人は額も顔も一面髪だらけで目も見えず、びっくりして死んでしまった」ということみたいだ。
石燕の描いた妖怪は、石燕が創作したものが多く含まれているそうで、この妖怪もその一つらしい。
何でも狂歌師でもあった石燕の仕掛けを読み取るのが『画図百鬼夜行』の見方で、『画図百鬼夜行』に続く石燕の一連の妖怪本は、妖怪カタログとしてだけではなく、妖怪の形を取りつつも、当時の卑近な話題を洒落や言葉・絵解き遊びで表したものだということだった。




