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「我はそろそろ行くが、大丈夫か?」
「あ、はい。大分気分も良くなってきましたから、もうちょっと休んだら帰れます。本当にありがとうございました。日傘も」
私は日傘を畳んでお兄さんに返そうとしたけど、お兄さんは日傘を受け取ることなく言った。
「それは其方にやろう。それが今必要なのは、我ではなく其方だからな」
「でも……」
ジュースを奢ってもらった上に日傘までもらうのは流石に気が引けて、私は言う。
「住所教えて下さい。送りますから」
「不要だ。時が経てば、それは消える」
いきなりそんなことを言われてもとても信じられなかったけど、「『化け狸』にもらったお金が只の葉っぱだった」なんて話も聞いたことがあるし、もしかしたらこの傘も葉っぱで作ったお札みたいなものなのかも知れない。
そういうことにしておこう。
私はまだベンチから動けそうになかったし、正直日傘を置いて行ってもらえるのは有り難かった。
「じゃあ、お言葉に甘えます」
「では、道中気を付けてな。さらばだ」
お兄さんは時代がかった別れの言葉を口にすると、踵を返して優雅に人混みの中に消えて行く。
何だか不思議な人だったなと思いながら、私はもう一度日傘を開くと、お兄さんの後ろ姿が見えなくなるまで見送った。




