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鼻のセレブに魅せられて

異世界っぽいけど、くしゃみが止まりません。


くっ、こんな所まで花粉の魔の手が!


※※主人公の妄想に微々々グロ表現有ります。ご注意ください※※

一回で収まることなく、何回かくしゃみを連発すると、男性たちが呆気にとられてるのがわかる。顔は見えてなくてもね、空気でわかりますよ。

こうなったらもう失うものはない。私はティッシュを取り出して勢いよく鼻をかむ。


ずびーーーーーっ。


ああ、すっきりした。

少しは気分も落ち着いて、肩から無駄な力が抜けた。ムズムズと痒む目から手を離して姿勢を正す。


「顔をあげて下さい。私は…ハル」


状況が読めない今、フルネームを名乗るつもりになれなくてファーストネームだけ告げた。ゆっくりと男性たちが顔を上げると、一番前にいたアンドリュー・ダル・ノーマイヤさんと目が合う。20代くらいに見えるのだけど、代表のように出てきたのだからもう少し上なのかもしれない。


「ノーマイヤさん、あの」

「御使にそのようにお呼びいただくなどと、この身には過ぎたることです。何とぞノーマイヤとお呼び下さい」


折角上がったノーマイヤさんの頭がまた下がってしまった。そんなに畏まられては背中がむず痒くてうまく話せない。


「それじゃあ…ノーマイヤ、なぜ私を御使と呼ぶんですか?そんな風に呼ばれる覚えがないんです。誰かと間違えていませんか」

「御使がこの地に降りられることは預言より我らは承っておりました」


ノーマイヤだけじゃない、全員が私を「御使」だと信じてやまない目で見ている。頭が痛い。比喩じゃなくて実際に痛い。あ、くしゃみもまた出た。殆ど効いてないのに副作用はきっかり出るの困るよね、花粉症の薬。


「そもそも、この地って?ここはどこなんですか」

「こちらはグインシュタット皇国第一国教会コンクラッツ大聖堂でございます。ハバナ正教の御使は800年前にこの聖地オトグノワより飛び立たれ、来たるこの日に再び降り立たれるとの預言を賜りました。我らはこの聖なる土地にて貴女様のお戻りを長きに渡りお待ち申し上げておりました」


私は渋い顔を浮かべる。カタカナ苦手なんだよなぁ。全然頭に入ってこない。とは言え、ここは日本じゃない事は間違いない。グなんとか国なんて知らない。

あと、800年間ずっと待ってたって事はわかったけど、それはむしろわかりたくなかった。重い。80年スパンの受け継ぎリレーだったとしても、10代前から…期待が重すぎる。私は御使じゃないし、御使なんて全く知らないと言っても信じてもらえそうにない雰囲氣に納得した。


くしゅん!


でも、神様のお使いがこんなくしゃみするっておかしくない?それに日本でもないのにどうしてこんなに花粉が飛んでるのか。

もう一度鼻を噛む。まずい、残弾数(ポケットティッシュの残り)が不安になってきた。近くに鼻セ◯ブ売ってるかな。


ふえっくしゅん!


「この国にはたくさん花粉が飛んでるようですね」


鼻を抑えながら、思わず恨めしい声が出てしまう。

ノーマイヤははじめ、頭の上に疑問符を浮かべていたけれど、やがて顔が青ざめていく。同様に他の男性も顔色を変えてざわめき出した。「カフンとは」「不浄」キーワードは少し聞こえてくるけれど殆どよく聞こえない。


「申し訳ございません」


苦虫を噛み潰したような顔をしてる。

え?謝ってきたけどノーマイヤさんが花粉飛ばしてるの?それなら、この場で刺し違えてでも…


「この地の不浄を一身にお受けになられているのですね。我らが至らないばかりに斯様な苦難を…誠に申し訳もございません」

「説明してもらえますか」


一向に話が見えて来ないので説明を求めた結果、ノーマイヤは此処で起きている問題を教えてくれた。


結論から言うと、宗教対立が起きていた。ここ、オトグノワはハバナ正教の聖地なのだけど、異教の聖地でもあってその礼拝堂も居を構えている。

ノーマイヤたちは聖地に異教徒がいることで不浄をもたらし、私に悪影響を及ぼしてこの有り様なのだと思っているようだった。ぜんぜん違う。

花粉という言葉にもピンとこないが、不浄を示す侮蔑の言葉なのだと受け取っている様子だ。


「やはり異教徒など根刮ぎ刈り取るべきなのです」


違います。スギとヒノキとブタクサを刈り取って下さい。


ノーマイヤの後ろから飛んできた意見を一蹴したかったけど、へたに刺激するのも怖くて言葉を飲み込む。

あ、そろそろ目が限界。痒くて痒くてどうしようもない。目玉をきゅぽーんと取り出してザブザブ洗えたらいいのに。


「御使、場所を変えさせていただけないでしょうか。貴女様が我らの罪咎をこれ以上抱えられてはなりません」

「どこへ行くんですか」

「浄めの部屋がございます。あちらなればこの街の不浄が届かないやもしれません」


くしゃみ鼻水目の痒み…これらの諸症状は間違いなく花粉症といえるから、浄めの部屋に入ってもどうせ変わらない。でも考える時間が欲しかったし、その為に一人になりたかった。それと、男性たちが羽織ってるローブが気になった。大聖堂入ってくる前に叩いて花粉落としたりはしてないだろうなぁ沢山付いてそうだなぁと。


ノーマイヤも身体を気遣ってか焦った様子で勧めてくるし、私は浄めの部屋とやらに行くことにした。時間にして20〜30分歩いてようやく部屋についた。中に通されると沢山の窓が目に付く。この教会、建築様式は日本の一般的なそれと大きく異なり、石を多く用いていた。窓は少なく、どこも薄暗くて、冷たい印象だった。

そんな中で通された部屋は異質だった。窓が多いため、光をふんだんに呼び込んでいて明るく暖かい。はめられたガラスは透明度が低くて外の様子を透かし見ることができないけど、その暖かさから今が日中であるとわかる。

加えて何とも嬉しいことに、部屋に入ってしばらくすると私の花粉諸症状が落ち着いたのだった。


理由はわからないけど嬉しくて仕方がない。

連れて来てくれたノーマイヤの手を両手でぎゅっと握って「ありがとうございます。本当に助かりました」と心を込めて謝意を伝えた。ノーマイヤはどう見ても花粉症じゃない。だからそんな彼にはこの喜びをはっきりと伝えておかないと!

彼は涙を浮かべて「滅相もございません」と返した。言い終わる頃には顔も真っ赤になっていたから、涙や顔色の大袈裟な反応に信仰心恐るべしと若干引きつつそっと手を離した。

閲覧ありがとうございます。

主人公の花咲ハルは花粉症に悩まされすぎて、稀に不穏な発想が出ます。

筆者としては『御使』=「みつかい」と読んで書いてますが、こだわりはないので好きな読み方をしてもらえればと思ってます。

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