危ないけいじ
『ハル』
「はい、なんでしょう」
声をかけられれば、呼び捨てとは珍しいと首を傾げつつもノーマイヤに返事をする。しかしその顔はきょとんとしている。
「今、私のこと呼びませんでしたか」
「いいえ、私は何も申し上げておりません」
空耳だったようで、私は運んできてもらった荷物の確認に入ろうとする。が、
『ハル』
空耳じゃない。ハッキリと聞こえた。その声は低音でも高音でもなく性別を感じさせない不思議なものだった。どこか人間味が薄く、少し音声ガイダンスに似ていると感じた。
「誰か私の名前、呼びましたよね」
私が声の主を探すべくキョロキョロと部屋を見回せば、ノーマイヤがハッとしてまた勢いよく床に膝をつけた。膝、痛そう。
「もしや今、啓示を受けられているのではありませんか」
「けいじ?」
「神の声です」
「ノーマイヤ、には聞こえませんか」
「いま私には何も聞こえておりません。神より直接の言葉を戴けるのは、御使や預言者の他にないのです」
他の人たちも「啓示をお受けに」「託宣が」だの何だの言いながら慌てて膝をつき、頭を下げて手を合わせる。よく見ると、震えてる人もいた。
「神よ、私はここにいます。とお答え下さいませ。さぁお早く」
「は、はい。かみよ、わたしは、ここに、います」
信仰の熱気が出てる。その空気に飲まれ、私は慌ててノーマイヤの言葉を復唱した。
『ハル』
痛い。
急に頭が痛みだす。花粉症の薬を飲んだ時の副作用に近いが、痺れるような感覚を伴っていた。何が起きてるんだろうか。
症状を和らげようと深呼吸をしてみるけれど、全くという程効果は感じない。
一先ず「はい」と短く返事をした。
『ハル、今日より使いの任を命ずる。我が言葉を届け、民を導くのだ』
声が聞こえる度に、頭に痛みと痺れが走るのだから堪らない。
しかも、『声』の内容は私を御使とやらに認めてる。これはもう二重の意味で頭が痛い。まだよくわからないけど、きっと御使って責任重いよね。なんで私なんだろう。前世はきっとモブ王国のモブモブ村のモブ村人だったんじゃないかってくらい平凡全開なんだけどな。他に適任者いないのかな。今からでもチェンジしてくれませんか神様。
『ハル、役目を果たせ』
声にしていない言葉も届いてしまってる気がする。
「何を、すれば?」
『今から1ヶ月後、街に酸の雨を降らす』
「酸の雨」
神様が降らすんだから、弱酸性ビ◯レってレベルじゃないよねきっと。
『酸の雨は人を灼き、地を灼き、家を灼くだろう』
げえええええ。心の中で大きな大きな悲鳴をあげる。ギリギリ声には出さなかった。
『お前に力を授ける。力を以って、我が民を守れ』
そう聞こえるや否や、ずっと苦しめられていた頭の痛みと痺れが急激に高まり、そして消えた。爆弾がはじけたような感覚だった。
そのまま私は意識を失った。
閲覧ありがとうございました。
異世界もので主人公がとんでもない博識だったり美形だったりする先天チートタイプのお話もありますよね。
そういったものも好きですが、本作は平凡さん主人公です。




