花粉はつらいよどこででも
そこは教会に似ていた。空を思わす程に天井は高く、施されている天井画は緻密で美しく、意識を飲み込まれそうになる。薄暗い室内を照らすは無数の蝋燭とランタンで、電灯は見当たらない。床には無数の長椅子が置かれており、祭壇らしきものを囲んでいる。
その周りにはローブを羽織った数人の男性が立っていた。表情は驚きに満ちている。
彼らの視線の先には、私がいる。
私、花咲ハルが。
私も男性たちも言葉が出ない。ただただ沈黙がその場を占拠している。彼らと同様に、私もまた驚きを隠せなかった。なぜなら、ほんの数秒前にはこんなところにいなかったのだから。このような教会の大聖堂なんてテレビでしか見た事がない。
記憶を確認する。私、花咲ハルは部活の合宿に行くところだった。集合場所は学校で、早く着いたから部室からバスへの荷物を運び込みを手伝っていた。そこへ後輩に呼び止められ、
顔を顰める。頭痛が走ったからだ。いつもの薬の副作用。今に始まった事ではないため気を取り直して、記憶を探ろうとする。が、呼び止められてから先は靄がかかったように姿をなさない。
(どうして。そもそも、ここはどこ?)
呼吸が震える。白昼夢でも見ているのだろうか。目頭がだんだん熱くなってくる。ヒリヒリと。私は目頭に手をあてる。
すると、男性たちの1人が一歩前に出て、沈黙を破る。
「私はアンドリュー・ダル・ノーマイヤです。御使、貴女の御前に立てた僥倖に言葉もありません」
ご挨拶が終われましたことをお詫び申し上げます、と添えつつ、床に膝をついて頭を深々と下げた。ワンテンポ遅れて、ハッと我に帰った残りの男性たちも同じように膝をついた。
(みみみみつかい!?御使って…)
言葉は通じてるのだけど、彼が何を言ってるのかわからない。一向に頭を上げようとしない茶色や金色の頭たちを眺める。
「ふ」
まずい。
彼ら全員が視線こそ床にあるけれど、その他の全神経を私に向けてその一挙一動を見逃すまいとしているのは明白だ。だから、我慢を、と思った、のだけど、
「ふぇ…ふえっくしょん!!」
重々しい空気をぶち壊す、間抜け極まりないくしゃみが響き渡った。
私、花咲ハルは春なんて大嫌いだ。
なぜなら、
花粉症だから。
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