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《黒の毎日》  作者: 主s.s
131/179

男は死んだ。そして、生きている

8月9日㈮人間界編

長崎県N崎市にて、ひとりの男がここに来ていた。街では、喪服を着た人達で賑わっていた

「父ちゃん、この服苦しいよ」

「我慢しろ、我慢できたらキャラメル買ってやるからな」

白い花束を持った男はその集団に混ざらず、通り過ぎて行った。その子の父親は彼の背中を見守ることしか出来なかった

「父ちゃん!」

「はいはいッ」

彼の名前は一王子 ハル。今日は大切な人と会う約束をしている。人通りの少ない路地裏では、彼の足音しか聞こえない。

1945年8月9日この日は…長崎県に原子爆弾が投下された日だ。長崎県民はこの日の出来事を忘れてはいけない。それは、彼も変わらない。この季節になると、毎年彼はここを訪れる

「(あと少し…これは、俺の贖罪(しょくざい)でもあるから。これで許してもられると、思っているわけではない…でも、いつかは…)」

彼は路地裏を歩いている。それは、過去に向かっているのか、未来に向かっているのか誰にも分からない…

「(俺は、被害者の資格がない…それしか言えないんだ)」

彼が着いた先は、とても暗く、陽の光が当たらない場所だ。彼はそこに、あの白い花束を置いた

「あ、そうだ…」

彼はスーツの内ポケットから古びた名刺を取り出し、花と一緒に供えた。そして、ゆっくりと目を瞑り、手を合わせたのだ

「…」

彼は一体何を考えているのか、それは誰にも分からない。彼が目を開けた時、隣に喪服姿の男性が立っていた

「…」

「あ、もしかして貴方も、式典に出るのですか?」

「…いいえ、俺には出る資格はありませんから」

そう言って立ち上がり、地面に置いた花束を持った

「…何があったか知りませんが、日本人なら誰しも出れる資格があると、私は思いますよ」

そう言った男。男は何気なく、地面に置かれた名刺を見ていた

「…もしかして、大切な人が亡くなったのですか?その…原爆とかで…」

彼は黙っている。男の目を見つめながら…そして、口を開いたのだ

「えぇ、亡くなりましたよ。とても大切な人が」

男は黙った。そして唾を飲み込み、彼に言った

「その…不謹慎かもしれませんが、誰が亡くなったのですか?」

「誰だと思います?」

男は地面の名刺に目をやった

「第一日本銀行…銀行員…一王子ハル」

一王子 ハル…彼はその名刺を拾い、上着の内ポケットにしまった

「…誰だと思います?」

「えっと、祖父とかですか?それとも、曾祖父の代とか…」

「いいえ、全て違いますよ」

「え?じゃぁ一体誰が…」

彼は地面を見てこう言ったのだ

「俺ですよ。俺がここで死んだんですよ」

男は、ありえないなどの文言(もんごん)を本来は述べるのだろう。だが、今ここでそんなことを言うこと自体が場違いと、男は思ったのである。男は何があったか知らないが、そこで何が小さな歴史的事件が起こったと思った。だから少しだけ、そこに手を合わせたのだった

「…あ」

ハルはその場を立ち去ろうとしていた。男は引き止めるように言った。でも、彼は式典には出ないと言った。「自分には出る資格がない」そう言ってばかりだ。そんな彼の背中を見守ることしか出来なかった男である。彼は十字架を背負っている。一度死んだのに自分だけ生き返り、目の前で死んだ仲間を救えなかった苦しみを背負っている…彼はここで死んだ。そして、現代で生きている。それだけである

登場人物

ハルト王子(一王子 ハル)

子供

父親

天気:晴れ時々曇り

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