六道坂
8月4日㈰人間界編
─ミーンミンミン…ミーンミンミン…
─コツ…コツ…コツ…
早朝八時、山の中ではひとりの足音と蝉の鳴き声しか聞こえない。『六道坂』それは、一見ただの石造りの階段のように見える。だが、その坂にはひとつの伝承があった。それは、その坂で一輪の花を見かければ呪わ、最後は死ぬ事だった。呪われた人が死んで行ったため、どんな呪いが降りかかるのかは伝えられていなかった。その山にひとりの者が入って来ていた
「…はぁ、あの少しだ」
現在、サキはその山の中を歩いていた。この山の前任の所有者、吾郎 辰太朗はその不可思議な伝承に気味が悪いと思い、サキに権利書を受け渡したのだ。生い茂った山道を歩き、サキはあの坂の前に来ていた
「…」
サキは辰太朗から軽くその伝承について聞かされていた。そして、その階段を登った。一段、二段と上がって行った。そんな時、背後からなにか視線を感じた。サキは振り向いたが何も無かった。不思議に思ったが、再び階段を上がって行った。そして、石段を登りきった先に、古びた和風な屋敷が建っていたのだ。その家は前の所有者が昔住んでいた屋敷であった
「…」
そんな時、誰もいないはずの屋敷の門が開いた。そこからひとりの女性が出てきた。二十歳前後の女性だろうか。肩まで伸ばした黒い髪に、透き通った白い肌をしている。
「…」
サキはその女性を観察するように見ていた。こんな山奥で、白いキャミソールワンピースを身にまとっていたからだ。隙間からは赤い下着の紐が見えていた。彼女はなかなか喋らなかった。
そして、彼女はサキを屋敷に招き入れた。とある、一室のお座敷に通された。机を間に向かい合うように座らされた。最初に彼女が口を開いた
「失礼、あなた…この山に来たってことはなにか、記者をしているの?」
「え?いえ、この土地の所有者。吾郎 辰太朗さんからこの山を譲り受けた…新しい所有者と言ったところです」
彼女は少し驚いた顔をしたが、すぐに顔を元に戻した
「そう。なら、この山の伝承も知っているのかしら?」
「伝承…ですか?少しだけですが」
「あなたが、この山の所有者になったからには、この伝承を断ち切って欲しいの」
「なぜ?ただ譲り受けた人に?」
「私はあなたに期待しているの。だから…」
「わっかりました…でも、その伝承ってなんですか?」
「そうね、ここでは分かりにくいと思うから移動しましょ」
そうして、ふたりはあの坂に来た。ふたりは石造りの階段を見下ろしていた
「ここは?」
「ここは『六道坂』そう呼ばれているわ。ここで、この場所に見合わない花を一輪見たら引き返せと言われているの」
「なぜ引き返せと言われているのですか?」
「引き返せなければ呪い殺される。それだけよ」
「そうなんですね…ところで、その花はどんな花なんですか?」
彼女は、とある一輪の花を指さした
「例えばあんな自然界ではありえない青色とか…」
「…!?ま、まさか!」
サキはさっき彼女かいつまた言葉を思い出した。まさしくその花が見つけたら引き返せと言われている花だ
「(ま、まさかこの女ッ!人を呪うためにこの土地にッ!)うっ!」
すると、サキは急にうずくまった。腹と背中から押しつぶされるような感覚。汗が吹き出し、体にある全ての体液が搾り取られるような感覚だった。そして、口から黒い泥のようなものが吹き出した
「おゥッ…ウェッ!グェッ!ブヘッ!ゴホッ…ゴホッ」
女はサキの背中をさすっていた。サキは階段を見下ろそうとした時、自分が吐いた泥のような物で足が滑ってしまった。そして、階段から転げ落ちた。全身が打ち付けられて落ちていった。痛みを我慢して、サキは上半身を起こした。手を退かすと、あの青い花が押しつぶされていた。押しつぶしたことにより、吐き気や腹痛などが無くなった
「…」
サキはその花を掴もうとしたが、触った瞬間に崩れ落ちた。彼女は、坂の上から見ていた。サキは服をはらいながら立ち上がった
「…はぁ、もしかして今のが呪い?」
「大丈夫?」
「…」
サキは彼女を睨んだ。そして、地面に落ちた帽子を拾ったのだ
「…?(まさかな…)」
サキは昔とあるひとりの妖怪の話を聞いたことを思い出していた
「なぁ…君もこんなところに執着せずに別の家に行きなよ」
「…それってどういう意味?」
「人間を守るのはいいけどさ、君の幸運を待っている人がいるんだからさ」
「…」
「座敷わらしさん」
「…!?」
「最初からおかしいと思ってたんだ。なんで、こんな古びた屋敷に人が、それも女がいるのか。なぜ、坂の伝承をよく知っているのかってね…だって、ずっとここにいたから。だから、全てを知っている。そうだよね?」
「…よくわかったわね」
「わしが所有している限り、この山には生き物は一切近寄らせないから安心しな」
そう言って、サキは山を降りて行った。彼女はサキの背中を見守りながら、どこかへ消えていった
彼女は座敷わらしである。この坂で呪いで死人が出ないように数年前からこの地にいたのだ。彼女はここから離れることはできない。
六道坂は、いつも静かである。だが、一輪の青い花を咲かせて、ひっそりと獲物を狙って待っているからだ
登場人物
サキ
白いキャミソールの女/座敷わらし
天気:晴れのち一時




