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Esperanto  作者: 葱鮪命
ベルナルド編
21/42

真夜中の出来事

「おはようございます、マギー。よく眠れましたか?」


「おはよう、カルト。目を開いても風景が変わらないから、自分が眠っていたのか分からない」


「そうですか。周りの風景に変わりはないのですね」


「うん」


 ある惑星と惑星の間に浮いている六歳の少女。生身の人間の体が宇宙空間に存在していることは不可能に近い。人型惑星・マギーはそれを実現できた唯一の例と言えるだろう。彼女の体には、エスペラントの研究チームから送られた淡い色の毛布が巻かれている。


 拡声器の開発により、マギーの声は研究員たちの耳に届くようになった。齢六の少女の声と言えばそうだ。


 彼女との接触を初めて数ヶ月。研究チームは様々な情報を彼女から集めることになっていた。まず、地球上で彼女の家族を探すため、彼女の血液を採集した。しかし、どの機械で分析しても画面に表示されるのはエラーの文字だ。マギーもその原因については知らないようだった。


 続いて、彼女が地球に居た頃の記憶を探ることになった。彼女はある日、学校に行こうとしていた。その途中で、世界が変になったのだという。言葉にはしづらいようで、ただ変になった、という話だけをされた。そこである男性と話をしたそうだ。そこから記憶は途切れ、気づくと宇宙空間を浮遊していた。


 何とも不思議なその話を聞いて、鼻で笑う研究員も居たほどだ。カルトは彼らを宥め、少女からさらに情報を集めようと多くの質問を考えた。少女は実に利口で、その一つ一つに何とか答えようとしてくれた。


 カルトは彼女との会話が日常の一部だった。最初こそ自分も鼻で笑う側だったが、このような不思議な事象が存在することを自分の目で確かめてからは、それに夢中だった。


 彼女は時折カルトのことも知り違った。彼女から見える画面には、カルトの顔のみが映し出されるようになっている。声もカルトのものしか聞こえないのだ。カルトは、まるで娘ができたかのようにマギーを可愛がっていた。


 *****


 ある日、カルトは夜中に目が覚めた。


 その日は家に帰らず、エスペラントの仮眠室で眠っていたのだ。仮眠室から出ると、真夜中のために廊下はしんと静まり返っている。カルトの足は確実に何処かに向かっていた。だが、カルト本人は自分がどこに行きたいのか分からなかった。


 まるで、誰かに体を操られているようだった。


 カルトは自分の体に従った。声を出そうという気力も起きなかった。


 やがて、たどり着いたのは惑星少女研究チームのモニター室だった。昼間にマギーと会話をする、大きなモニターのある場所である。


 カルトは違和感に気づいた。


 部屋のモニターが光っているのだ。暗い場所にずっといたので、突然目に入る光は頭痛がするほど眩しく感じた。


 この部屋にある機器は、照明も含めて全て消すことになっている。最近は機械の開発に使う電量の多さから、節電をするようにキュルスから言われているのだ。研究員が居ない時は部屋の電気をすべて消すのだが、何故かモニターがついてしまっている。


 おかしい。最後に部屋を出たのは自分だったので、確実に全ての電気がオフになったことを確認していたはずなのだ。


 カルトの足は迷うことなく部屋の中に進んだ。こうこうと光るモニターまで歩いていく。モニターは真っ白で、マギーの姿もなかった。


「マギー......?」


 カルトは画面に向かって声をかけた。すると、操作もしていない画面が突然マギーを映した。彼女は体を縮めて眠っている。初めて彼女を見たときの、胎児のような姿勢だ。彼女は眠っている時にこの姿勢をするので、今も眠っているのだろう。


 カルトは一体何をしに自分は此処に居るんだ、と心の中で問う。

 このモニターの前まで自然と体が動いてしまったのだ。まるでマギーに呼ばれたように。


「あの子」


 突然、マギーの口が開いた。


「あの子を呼んできて」


 彼女は目を開いた。その目には、悲しみの色が浮かび上がっている。


「もう同じことを繰り返したくない」


 彼女の声は震えている。

 カルトは彼女の言葉の意味が理解できなかった。


「私じゃ抑えられない。やり方も分からないもの」


 マギーの目は確実に画面の向こう側のカルトに向いている。


「カルト」


 カルトは物音を聞いた。振り返ろうとして、突然目の前が真っ黒になった。それは誰かの腕だった。頭の骨が軋んだ。足は床から数センチ浮いた。


 黒いクレヨンで塗りつぶした箱を被ったような頭部の男だ。


 それは、カルトの頭を簡単に潰した。拡声器は少女の悲鳴を拾った。


 *****


 研究所は大騒ぎだった。モニタールームにて、頭が潰された一人の男性研究員の遺体が見つかったのだ。防犯カメラの映像を確認すると、頭部が黒い立方体の化け物に殺されている映像が残っていた。研究員たちは、すぐさま施設内を探したが、その化け物は既に施設の中には居なかった。


 また、防犯カメラの映像にはマギーが亡くなった研究員と会話をしている映像が映っていた。主にマギーが何かを話していたが、次の日モニターをつけるとマギーは眠ってしまっていた。それから彼女が起きることはなく、惑星少女の研究チームは解散となった。


 以後、どんな手段を使おうとマギーとの接触は不可能になった。機械の不具合に始まり、マギーに接触するための機械を作っていた研究員たちが原因不明の死を遂げたり、行方を晦ましたりした。


 エスペラントは、マギーの行方を追わなくなった。彼女の実態はあまりにも奇妙で、研究員たちはこれ以上の犠牲を生みたくはなかったのだ。


 しかし、もちろんベルナルドは諦めない。

 今も宇宙の何処かに存在し続けているその少女との接触を試みているのだ。


 彼女は確実に何かを知っている。

 空白の一日がなぜ起こるのか。その全てを知り尽くすことが、永遠に生きることを望む男にとって最重要なことなのだ。

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