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Esperanto  作者: 葱鮪命
ベルナルド編
19/43

ある精神科医

 大きく事が動いたのは、時間に関する実験を行っている時だった。


 それは、空白の一日を調べていく上で明らかになった、宇宙のある一端で起こった出来事だ。


「ベルナルドさん、ハーレー達の研究グループから報告がありました」


 ある日そう言って部屋に入ってきたのは、従順なベルナルドの下僕であるキュルス・ガイラー(Cyrus Guyler)だった。美しい容姿は女性を引き寄せるのにとても都合が良い。そんな人間はすぐ実験体リストに追加されるが。


 ハーレー・リドル(Harley Riddell)率いるグループは、宇宙探索を主とした研究を行う。ベルナルドが命に関する実験を行う中で、彼らもまた並行して他の実験を行う。頭の良い連中は基本的にそう言った研究グループに配属されるのだ。


 キュルスはハーレーらから受け取ってきたのであろう、分厚い資料を渡してきた。


 ベルナルドはそれに目を通す。


「人型の惑星か」


 それは、もちろん常人が読めば鼻で笑われさえするだろう内容だが、極めて真面目にベルナルドもハーレーらも向き合うものだ。


 この地球から遠く離れた惑星と、その隣の惑星の間を浮遊している人間がいるという。宇宙船から投げ出された宇宙飛行士か、それともただ宇宙にある塵がたまたま見えただけか。


 エスペラントに置いてある望遠鏡は、天文台に置いてあるような大きさではあるが、それとは格が違う。知識人を集めて作らせた傑作だ。宇宙の末端まで見回せるとベルナルドは思っているくらいだった。


「一体、何でしょうね。超常現象でしょうか」


 キュルスが聞いてくる。


「そうかもしれない。せめて性別と歳が分かればな。少し思い当たることがある」

 ベルナルドの言葉にキュルスは目を見開いた。


「わかりました。では、ハーレーにはもう少し踏み込んで調査するように言いますね」


 キュルスが部屋を出ていくと、ベルナルドはデスクについている引き出しから、分厚いファイルを取り出す。『空白の一日』と書かれたそのファイルを開き、そしてとある場所に注目した。


 それは、ある新聞の切り抜きだった。

『ベテラン精神科医、精神崩壊状態で発見』


 見出しにはそう書いていた。


 ある日突然行方不明になった精神科医は、直ぐに戻ってきたは良いものの、その後、言葉を話すことができなくなった。詳しく言えば、人の言葉を話せないのだ。まるで自分がこの前まで喋っていた言語をすっかり忘れてしまったかのように。

 しかし彼はそれを可笑しいとは思っていないらしく、ただただ普通に話そうとして、相手が困惑している様子を見て事の異常さに気づいたらしい。本人にとってはかなりのショックだったらしく、彼は精神病院への入院が決まった。ベテランの精神科医が精神病院へ入院するとは何たる皮肉かと思うが、彼は文書001の著者である可能性が高いと見込んである。


 この情報はベルナルドが大学時代の文書の研究チームから奪い取ったものだが、実に興味深い内容だった。


 彼は未だ精神病院に居るのか、それは分からないが、ベルナルドは何とか彼との接触を試みた。すると、あるエスペラントの研究チームの一人があるデータを持ってきた。それは、その精神病院で録音された、著者と医師との会話の記録だった。


 聞いてみると、彼の言葉はやはり人間のものでは無い。しかし、分析して考えた結果、以下の単語を言っていると分かった。


『少女』


 正直、これだけでは何を言いたいかは全く分からない。だが、この情報から分かるのは、空白の一日で「少女」が大きな鍵を握っているということ。それは一体どんな少女か。


 数日後、キュルスが再びハーレーの研究チームから資料を貰ってきた。


 ベルナルドが目を通すと、人型惑星は少女の姿をしているという。彼女の姿は写真に収められていたが、やはり距離が原因なのか、少しぼやけてしまっていた。


 ベルナルドはひとつの仮説を立てる。


 少女が居ることで、空白の一日が作られるという説だ。

 その少女との接触を試みると、空白の一日を操ることができるのかもしれない。

 もしそうならば、と何人かの人間を送り込んだが、帰ってくる者など現れない。大体は辿り着く前に燃料が切れ、宇宙の塵と化す。


 そこでベルナルドは無人探査機を送り込み、それに関する研究チームを作った。あとは彼らに仕事を任せ、ベルナルドは再び命の研究に戻ったのだった。

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